堀井憲一郎『若者殺しの時代』

若者殺しの時代 (講談社現代新書)

若者殺しの時代 (講談社現代新書)

私が愛聴しているポッドキャストのひとつに、伊藤洋一のRound Up World Now!という番組がある。伊藤洋一のカラーがかなり前面に出ているので、決して公平な内容ではない気がするが、国際政治と内外の経済が大まかに分かってとても面白い。その最新の更新番組で、「今週の気になる作品」として採り上げられていた本。ここで初めて知った。教養新書ブームと言われる時代だが、それはごくごく一部で、このような作品はほとんどすぐに忘れ去られる。しかし、それは勿体無い。実に素晴らしい新書だった。
堀井憲一郎週刊文春で「ホリイのずんずん調査」という連載をもう随分長くやっている。別に知らなくてもいいようなことを徹底的に調べ上げるコラムで、本書はそのいくつかのネタを元にしたものだそうだ。
世間が「若者」に消費を求め、それに若者が乗ってしまったことによって世間そのものが大きく動き、何かを得ながら何かを失った時代の流れを、1980年代を中心にしたいくつかの出来事を転換点として紹介、分析している。その分析力と調査力が素晴らしい。例えば、「クリスマスは恋人と過ごす」という習慣を最初に植え付けたのは、1983年の「アンアン」だったと指摘する。ドラマが「ホームドラマ」という「内なる家族の物語」から「トレンディドラマ」なる「外へ向けた恋人たちの物語」に変わったのは1991年の「東京ラブストーリー」からだ(その前に「男女七人」もあるが、決定づけたのは「東京ラブストーリー」だ)。その他、「一杯のかけそば」、宮崎勤事件、携帯電話、ヘアヌード写真集(1991年の宮沢りえと1997年の菅野美穂が、90年代の入口と出口を象徴している、という指摘が非常に面白い)、年々重くなるミステリ小説(当然ながら、筆記具の変化がポイントになる)、「お茶」と「水」の有料化、などといった事象から、若者文化が実は「若者が動かした」のではなく「ただ誘導されただけ」だった事実を明らかにする。面白い。
語り口も実に楽しい。この人の文章センスの面白さは、実際に読んでいただかないと伝わらない。私は常々、堀井憲一郎リリー・フランキー並みにメジャーにならないのはおかしいと思っている。読んでみてください。