道尾秀介『背の眼』

背の眼 (GENTOSHA NOVELS―幻冬舎推理叢書)

背の眼 (GENTOSHA NOVELS―幻冬舎推理叢書)

ホラー作家の道尾は、福島県の山中にある白峠を訪ねたが、ここで子供たちが次々に失踪し、うち一人が死体で発見されていたことを知る。さらに「オグロアラダ……」という謎の声を聞いて恐怖に怯えた。彼は旧来の友人で霊現象探求家の真備に相談した。真備の元にもまた福島県からの、背中に眼が映り込んだ心霊写真に関する相談が寄せられていたのだ。しかも背中に眼が映った人々がみんな自殺しているという。道尾は真備と共に、再び白峠に向かったのだが……。
ホラーサスペンス大賞で特別賞に選ばれたデビュー作だ。全体的な雰囲気は京極堂シリーズに似ているし、ミステリとしてもホラーとしても詰めの甘さが感じられて、中途半端な印象は否めない。予想の範囲内に収まっていて意外性がなく、驚けないし、さほど怖くもない。のだが、騙りが非常に巧くて、引き込まれる。ところどころに散りばめられた薀蓄も面白い。可能性・将来性を感じさせる作品で、化けるのも時間の問題ではないか――と、いうのは、『向日葵の咲かない夏』が話題となって、最新作『骸の爪』が評判になっている今だからこそ、私なんかでも書けてしまえる。この作品一作の時点で、この作家の可能性を見抜いた方々(選考委員、編集者、書店員、読者も含めて)はみんな凄いと思う。すみません、私は今ごろ気付きました。早く『骸の爪』が読みたいです。