道尾秀介『骸の爪』

骸の爪

骸の爪

ホラー作家の道尾は、従兄弟の結婚式のため滋賀までやって来たが、予約したはずのホテルが手違いで予約されていなかった。仕方なく、続けて取材に行く予定だった仏所(仏像の工房)に泊まらせてもらうことになった。だが彼はそこで数々の不思議な体験をする。仏が笑う、頭から血を流す、何処からか声が響く――この場所では20年前に不可解な殺人事件が起こっていた。そして現在でもまた……全ては過去の死者の怨念がもたらしたのか? 道尾は霊現象探求者・真備をこの地に呼んだ。
『背の眼』に続く、道尾=真備シリーズ第二作。ホラーの部分も残ってはいるが、これはまぎれもない本格ミステリである。しかも、大傑作だ。序盤での畳み掛けるような不可思議な謎と中盤での事件が、ものの見事に合理的に解決され、伏線を完全に回収してしまう。大きな物理トリックもあれば、ちょっとした錯誤が生んだトリックもあり、それらが複雑に絡み合っている点が素晴らしい。大トリック一発勝負だけなら、これほどの読後感は残らなかっただろう。犯人はちっとも意外ではないし(これが2時間ドラマになったら、始まって3分で犯人が判るだろう)、ちょっと「旅情ミステリ」風な雰囲気が前作から残っているのが気になるものの、作品の素晴らしさの前では小さな欠点だろう。某氏に「島田荘司横溝正史」と言われたが、それはちょっとオーバーかな……とも思うものの、なかなか鋭いところを突いている発言である。あの『背の眼』から、ここまでジャンプアップした作品を書いてしまう道尾秀介が凄い。今年の本格ベスト3級ではないだろうか。読むべし。