桜庭一樹『少女七竈と七人の可愛そうな大人』

少女七竈と七人の可愛そうな大人

少女七竈と七人の可愛そうな大人

わたし、川村七竈はたいへん遺憾ながら、美しく生まれてしまった――旭川という地で、「父親が誰か分からない」境遇に育った七竈は17歳の高校生として日常を送る。「雪風」という名の美少年、雪風に思いを寄せる後輩みすず、母、祖父、学校の先生、芸能プロダクションの人物、元・警察犬のジャーマンシェパードなど、様々な視点で描かれる七竈の繊細な日々。そして出会いと別れ。
既刊の青春小説アンソロジーSweet Blue Age』に収録されていた短編「辻斬りのように」が本書の冒頭に配されており、プロローグの役割を果たしている。つまり、7人の男と次々に寝た女教師・川村優奈が七竈の母親なのだ。この短編で象徴的に語られる花「七竈」がそのまま少女の名前になっているのである。青春小説でもあり恋愛小説のようなこの作品は、桜庭一樹の得意な世界「少女の繊細な心理描写」が今まで以上にクローズアップされていて、もうこの著者以外には書けない領域に達しているような気がする(少なくとも男性作家には絶対に書けない世界だろう)。女性読者なら共感する部分も多いかも知れない。今回、綺麗な描写や美しい文章に付箋を貼りながら読んでいたが、付箋がたくさん付いてしまった。ラストも美しい。ラノベ作家だから、と敬遠している人にこそ読んでいただきたい作品だ。