米澤穂信『ボトルネック』

ボトルネック

ボトルネック

兄が死んだことを知らされた時、ぼくは東尋坊にいて、かつて恋したひとを弔っていた。諏訪ノゾミは2年前、ここから落ちて死んだのだった。と、ぼくも意識を失った……気がついたら、金沢に戻っていた。いつもと同じ光景なのに、何かがおかしい。家に帰った。しかし自分の鍵では開けられない。ノックしたら、見たこともない女が出てきた。どうやらぼくは、「ぼくが生まれなかった世界」に迷い込んだらしい。サキと名乗った女は、ぼくの世界では「生まれなかった姉」らしいのだ。そしてぼくはこの世界で、かつて死んだはずのノゾミに出会った。
パラレルワールドを使った異色青春ミステリ。が、ただの能天気かつ楽天的な話にしないのが米澤穂信だ。前半こそ、「別の世界」に迷い込んだぼくの戸惑い振りを楽しく読めるし、違った世界で新たな可能性が広がりそうな展開をしてみせるが、最後には何とも言えない重さ・やり切れなさが襲ってくる。あまり具体的には書けないのだが、この読後感こそ米澤作品の真骨頂と言えるだろう。パラレルワールドの片方の世界での事件の謎をもう一方側にいる人が解く、という趣向も斬新で感心させられた。ミステリ的にも、SFとしても、青春小説としても出色の出来。個人的には、米澤穂信の現時点での最高傑作だと思う。