竹本健治『ウロボロスの純正音律』

ウロボロスの純正音律

ウロボロスの純正音律

ミステリ作家・竹本健治は、南雲堂の南雲一範から、書き下ろしマンガの依頼を受ける。元々同人でマンガ経験のある竹本は、牧場智久を主人公にして囲碁を本格的に描いたマンガを描くことにした。南雲からは仕事場として南雲家の別邸、通称「玲瓏館」を貸してもらい、リエンヌという美人アシスタントも付けられた。玲瓏館はまるで「黒死館」を思わせるような大屋敷で、プロアマ問わず、多くの知人にも少しずつ描いてもらう、というアイデアを思いついた竹本は、仕事場に知人の作家・評論家などを招いて談笑や館の探索をしていたが、そんな折、評論家・福井健太が煙突に突っ込んだ状態で死んでいるのが発見される。それはまるで「モルグ街の殺人」の見立てのようだった……。
ウロボロス」シリーズの第三作だが、『偽書』『基礎論』が未読でも楽しめる。1999年に実際に発表された竹本健治囲碁マンガ『入神』の製作過程で起こった事件という設定で、どこまでが真実でどこからがフィクションなのかが分からないメタ構造(あるいは内輪受け)が楽しめる。大長編なのに一気読みできたのも、登場人物たちの会話が想像しやすく、業界の裏話的な部分が面白いからだろう。事件の真相には呆れてしまうが、全体構造の緩さがそれをも認める環境になっている。登場人物のある人(作家ではないが、私が面識ある人)がクライマックスで京極堂ばりの大活躍をするので笑ってしまった。いや、羨ましいのですが。