島田荘司『最後の一球』

最後の一球

最後の一球

御手洗潔と石岡和巳は、ある青年の訪問を受けた。彼の母親が自殺未遂をした理由を知りたいという。早速母親の元を訪ねた御手洗は、彼女が悪徳サラ金への債権を抱えていて悩んでいる事実を知るが、解決策としてお札にいたずら書きをしただけで帰ってしまう。だが後日、彼女が「債権が無効になった」とお礼を言ってきたのだ。不思議がる石岡だったが、その直後、あの竹越警部から連絡が入る。そのサラ金会社が火事になったというのだ。御手洗が言った……「奇跡が起こったよ石岡君」――その裏には、野球に打ち込んだある男の哀しい物語があった……。
サラ金の火災事件は、中盤で一応の解決を見る。だがその後の男の長い手記が、この事件の真相に迫っているのだ。『最後の一球』というタイトルの真の意味も、この後半で登場する。男同士の友情から生まれた犯罪物語になるが、そこだけを取り上げれば、やはり読み応えのある感動的な物語である。しかし、御手洗ものとしてはちょっと弱いか。構図が「数字錠」に似ているし、メイントリックも自作の長編に同じタイプのものがあった。いい話なのは確かだが、それを過剰に演出しすぎているのが少し気になった。