関田涙『晩餐は「檻」のなかで』

晩餐は「檻」のなかで (ミステリー・リーグ)

晩餐は「檻」のなかで (ミステリー・リーグ)

錫井イサミは、社会派ハードボイルド作家としてデビューした作家だ。三冊の著作もある。最初こそそれなりの収入があったが、今はただの売れない作家だ。そこへ編集者から「本格ミステリーを書いてみないか」と話を持ちかけられたのだが――7人の人物が「檻」の中に閉じ込められていた。「仇討ち」が認められた世界で、初めて公的に認められた「仇討ち」が行われようとしているのだ。ただし7人のうち誰が加害者で誰が被害者(の遺族)かは本人以外知らない。探偵役は、誰が仇討ちを実行するのかを推理しなければならない。その期限は72時間――。
作中作にあたる小説パートと、作家周辺の物語の作家パートがカットバックで描かれている。作家パートは非常に面白い。「売れない作家」の実情にかなりリアリティがある。作家志望者とのメールのやり取り、近所の人から原稿を見せられたりなど、いかにもありそうである。そしてそれらが意外な方向に進んでいく後半も楽しい。ただ、作中作が全く乗れないのがこの作品の欠点だ。設定はまあ我慢できるが、登場人物の誰にも感情移入できないため、正直、誰が犯人で誰が被害者か、などということには興味が全く沸かない。ラストの仕掛けは多少感心したものの、この手の話に読み慣れている読者には驚きは小さい。
一箇所、自虐ネタっぽい文章があったので引用しておく。

しかも、宇佐美くんが掴んだのは、エンターテインメント文学の新人賞としては最難関といわれる神埼賞である。雑誌の編集者が選考をし、ひとりでも気に入れば出版されてしまう某賞などとはわけが違うのだ。(152ページ)