古川日出男『サマーバケーションEP』

サマーバケーションEP

サマーバケーションEP

井の頭公園から神田川沿いに海を目指して歩く話。ただそれだけなのだが、これが面白い。スタート時3人だったメンバーは、何故か増減を繰り返し、最大16人になり、多国籍になる。しかし最後にはまた3人に戻るのだ。改行を意識的に多用してリズミカルな文体をあえて採用し、一つ一つの物・人に焦点を当てていく(「こんにちは」「さようなら」が繰り返される)独特なレトリックで、読者を「真夏の徒歩の旅」に同行させる。たまにはこんな冒険をしてみたい、と思わせてくれる。
リズム感が如実に表れている例を引用しよう。96〜97ページ。

僕は感じます。
僕は、また会うんだな、と感じます。
だから準備をします。
あいさつの準備です。
子供たちにではありません。
ほら。
そこです。道路から、ちょっと下る。
すると、あります。ありました。遊歩道が。
遊歩道があって、だから、川が。
その先に。
僕はあいさつします。神田川、こんにちは。
帰ってきました。僕たちです。こんにちは。