「悪い男」(2002年韓国作品)

悪い男 [DVD]

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キム・ギドク監督作品。
最初は軽い気持ちで、前半だけ観るつもりだったが、いつの間にか引き込まれて最後まで見入ってしまった。これは韓国映画を代表する傑作の一つである。
はっきりいって、ひどい話だ。たまたま見かけた女子大生ソナ(ソ・ウォン)に一目惚れして自分のものにしようとするチンピラ(チョ・ジェヒョン)が、彼女に罠をかけて売春婦にまでしてしまう。女性の視点からするとあまりにも理不尽であり、男に対しては憎しみしか覚えないだろう。しかし、この男にとっては、こういう形でしか彼女を愛せない。誰もが持っているに違いない、男の女に対する「独占欲」を極端かつ歪な形で表現したものかも知れない。売春する部屋をマジックミラー越しに観察し、場合によっては客を強退去させる男。怒りと憎しみでいっぱいなのに、この男にしか拠り所がなくなってしまった女。ラスト近く、ベンチで座って手が触れ合っている二人は、初々しいデートをしているようにすら見える。
男にはほとんど台詞がない。クライマックスで、手下のチンピラをボコボコにする時に「ヤクザのくせして、何が愛だよ」と甲高い声で叫ぶのが唯一の台詞である*1
俳優もみんな日本では無名な人ばかりだし、韓国社会の暗部(売春街)をクローズアップしたりと、決して印象のいい作品ではない。しかし、心に何かが残る。そして、キム・ギドクという才能に感服するのである。必見。
歪んでいるけど純粋な愛の形を描かせると、キム・ギドクは圧倒的に巧い。そういう映画を観たい人には、迷うことなく「悪い男」と「サマリア」をお薦めする。
あ、そういや『悪い男』って、津原泰水が小説化してるんだった。買ってたけど積読だったな。読まなきゃだわ。
悪い男

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*1:監督インタビューによると、かつて喉を切られていて喋れない、という設定だそうだ。