桜庭一樹『桜庭一樹読書日記 少年になり、本を買うのだ。』

大傑作。私が今までに読んできた「読書日記」の中でもベスト級。
WEBミステリーズ!での連載を元にしたものだが、単行本化にあたって書誌情報や注釈、さらに追加情報なども織り込まれ、読み応えのある一冊になっている。元々、桜庭さんと担当編集者K島氏との漫才のような掛け合いが評判だったが、それもさらに新たなボケとツッコミが入る場面も。桜庭さんの読書の幅広さもすごいが、K島氏ももっとすごい量読まれているので、そんな二人の会話を読むだけで、読書意欲が沸いてくるから不思議なもの。
作中、桜庭さんの作家としての目標みたいなものがあったので引用しよう。

都会の大きな本屋さんにあって、地方の小さな本屋さんにはない本、というものもある。わたしは田舎に生まれて、子供の足で徒歩圏内にある小さな本屋さんで育って、十八歳で上京したとき初めてビルの本屋さん(ビル一つまるごと本屋!)に入ったので、どちらの本屋さんにもいられる作家になりたいなぁと、ずっと思っていた。そうなったとき、過去の自分にも、つまり未来の誰かにも、本当に届くような気がするのだ。
(259ページ)

恐らく、その目標は達成されていることだろう。
かと思えば、こんなお茶目なやり取りもあるから楽しい。桜庭さんが東京創元社のドアを開けようとしたら開かなくて、新人編集K野氏に開けてもらった後の会話である。

K島氏「K野くん、どうしてドアを開ける前にぼくを呼びにこなかったんですか。君はわかっていない。君はなにもわかっていない」
K野氏「す、すみませ、ん……? え……?」
K島氏「ぼくは、ドアが開かずに外で困っている桜庭さんを、内側からじっくり眺めたかったんですよ。笑顔で手を振って、しばらく堪能して、もういいかとあきたころに感謝されながらおもむろにドアを開けてあげたかったのに。それなのに、君があっさり開けちゃうから」
K野氏「あっ、そういうことですか! ほんとにすみません」
わたし「……!」
(210ページ)

マジで吹き出すかと思った。
あと、これは実現不可能かも知れないが、冗談でもいいから書いて欲しいと思ったのが、『ミステリ・フロンティア殺人事件―名探偵K島登場―』だったり。