伊坂幸太郎『オーデュボンの祈り』

オーデュボンの祈り (新潮文庫)

オーデュボンの祈り (新潮文庫)

ラッシュライフ』で「お、これは!?」と感じ、『陽気なギャングが地球を回す』で「おもしれー」と思って周囲に「伊坂の時代が来る」と言いふらしていた、割と早い段階で伊坂の魅力に気付いていた私だったが、実はこのデビュー作だけ、未読だったのだ。というわけで、初読である。
今になってみると、会話のセンスや物語展開に伊坂らしさを感じさせるが、当時にすれば、変な設定の妙なミステリで、これで賞が取れたことが凄いと思う。先見の明であろう。面白いし、読み応えももちろんある。
最も印象的な文章を挙げよう。合法的に殺人が認められている男・桜の台詞だ。

「一人の人間が生きていくのに、いったい何匹の、何頭の動物が死ぬんだ」
……
「これからは考えろ」と、命令するように彼は言った。「動物を食って生きている。樹の皮を削って生きている。何十、何百の犠牲の上に一人の人間が生きている。それでだ、そうまでして生きる価値のある人間が何人いるか、わかるか」
……
「ゼロだ」
(304〜305ページ)