小田光雄『出版業界の危機と社会構造』

出版業界の危機と社会構造

出版業界の危機と社会構造

同じ著者による『出版社と書店はいかにして消えていくか』『ブックオフと出版業界』と本書を合わせて、三部作を成すそうだ。
前半は2001年から2007年9月までの出版業界の動向を「クロニクル」の形でまとめている。もっとも、明るい話題などほとんどなく、「廃業」「倒産」の話題ばかり。これが10月までだったら、エクスメディア自己破産も入っていたことだろう。いずれにしても暗い話題ばかりで、業界に身を置く者としては気が滅入る。
後半はデータを駆使しながら、現在の出版業界の分析と、その原因を探っている。結局のところ、戦後の社会構造に問題があったのだ、アメリカ主導の経済が失敗の原因だった、みたいな話になっていて、「自分たちは悪くない」の論調になっているように見えるのが気になる。
ともかく、現在の業界の実情を知るのにはいいテキストになっている。
最も印象的な部分を引用しよう。

かつて徳富蘇峰講談社を民間文部省だと言ったが、日本の出版業界こそが民間の国民教育機関の役割を果たしてきた。教科書の供給も出版業界が担ってきたし、国民雑誌、国民作家を生み出し、立ち読みもできる町の中小書店が国民文化を育む供給元でもあった。そこから日本文学全集や古典全集も含めて、日本のアイデンティティといえる本が家庭の中に入っていった。そのことで同じ日本語を読む日本人という共通認識が保たれてきた。ところがこれらのすべてが危機に追いやられている。それに現在の複合大型店やショッピングセンターの書店には近代文学全集も古典も置かれていない。「国民のつながり」がなくなってしまえば、日本という国家すらも成立するかどうかわからない状況に進んでいる。ロードサイドビジネスによる郊外消費社会の成立に続いて、ショッピングセンターの出現で、風景はアメリカと化した。そしてアメリカの命じるままに消費者のニーズだけに応える国になってしまえば、日本は一体どうなるのか。
(266ページより)