金聖響+玉木正之『ベートーヴェンの交響曲』

ベートーヴェンの交響曲 (講談社現代新書)

ベートーヴェンの交響曲 (講談社現代新書)

かつて朝比奈隆が『朝比奈隆ベートーヴェン交響曲を語る』という対談集を出した。全9曲について、指揮者としての技術的な話が多かった(ここは、過去の指揮者たちはこうしていたが、私はこう振る、など)が、本書は譜例もいくつか登場するものの、基本的には「この曲はこんなにも素晴らしいんだ! だからもっと楽しもう!」というスタンスで書かれている。どの交響曲も独自の個性があり、非常に面白いことが分かる。
最も印象的な部分を引用しよう。

『第九』には、いろいろ突っ込みようがあります。ここはおかしいじゃないか、ここはいらないのではないか、と思える部分もあるのです。が、『第五』には、そういう部分はたったの一ヶ所も存在しない。たったの一音もありません。満点の作品なので、これ以上に完成された作品など、誰にも生み出すことはできません。もちろん、ベートーヴェン自身にも、生み出すことはできませんでした。
(106ページ)

第五交響曲と第六交響曲は、まったく同じ時期に作曲され、初演も一緒に行われたのですが、前者は究極の作品として完璧なまでに完成された作品であり、後者は後世に大きなアイディアを与え、影響を及ぼし、次の時代を拓いた作品といえます。まったく同じ時期に、このような過去の完成と未来の開拓という仕事、フィニッシュとスタートを一気に成し遂げてしまったベートーヴェンという作曲家の超人的な才能と意思には、あらためて感嘆するほかありません。
(152ページ)

なお、金聖響は「のだめカンタービレ」の千秋のモデルとされている若手指揮者。「ダ・ヴィンチ」では「リアル千秋」として紹介されたことがあるそうだ。