道尾秀介『ラットマン』

ラットマン

ラットマン

30歳になった姫川亮には、子ども時代のトラウマがあった。姉が謎の死を遂げ、その直後に父も他界し、母はそれ以降心を閉ざしてしまっていた。今はバント活動をしている姫川。活動中にドラマーが、ひかりから妹の桂に替わり、姫川の心もまた、ひかりから桂に移りつつあった。そんな折、ひかりが妊娠。二人は堕ろすことを決断する。その直後、バンドが練習するスタジオの倉庫で、ひかりが変死した。姫川の脳裏に、かつての事件の記憶が蘇ってくる……。
これは傑作だった。道尾秀介の最高傑作だと断言したい。
ミステリとしても優れているが、それ以前に「青春の終わり」の小説として実に優れている。何かを失い、何かから離れて人は「真の大人」になるという事実を、作者は読者に訴えかける。今の事件と過去の事件の関連性も上手い。自分の30歳前後のことを思い出しながら、主人公に感情移入しまくっていた。これほどロマン性を前面に出してきたのも、本作が成功している要因だろう。
2007年はややトーンダウンした道尾秀介だったが、ここでまた大きく話題になると思う。「ポスト伊坂幸太郎」の位置にまた一歩近づいた気がする。