恒川光太郎『秋の牢獄』

秋の牢獄

秋の牢獄

恒川光太郎作品はこれが初読。11月7日を何度も繰り返す「秋の牢獄」はただ繰り返すのではなく、同じ境遇におかれた者同士の交流と、一人ずつ「11月8日に去っていく」部分をホラー的にアレンジしており、新しい観点で面白かった。途中、ケン・グリムウッド『リプレイ』を手にしているシーンがあるが、これは北村薫『ターン』でしょう。「神家没落」は、定期的にジャンプして日本中を旅する家と、そこから出られなくなった男の話。途中の郷愁を誘う展開に巧さを感じていたが、ミステリ的な発想に驚かされた。ただ、アイデアを詰め込みすぎな感もあり、どちらかに焦点を絞ればなお良かったと思う。幻視能力を祖母から受け継ぐ話「幻は夜に成長する」も良い小説だったが、収拾不足の部分もあった。
全体的にレベルの高い短編集だ。この作家の他の作品も読みたくなった。