角田光代『八日目の蝉』

八日目の蝉

八日目の蝉

本屋大賞ノミネート作品。
恋人の子供を誘拐して逃亡した女は、新興宗教めいた団体にすがったり、小豆島や大阪でひっそりと生活する。娘とのこじんまりとした幸せな生活があればそれで良かった……そしてその娘は二十歳になった。自分が巻き込まれた事件は本で知った。しかし、毛嫌いした「あの人」と同じ人生を歩みつつあることにジレンマを感じるのだ。
過去と現在の二章構成。前半はどんどん悪い方向に進むのに、主人公の小さな幸せをかみ締めるような物語に惹きつけられる。ページを繰る手が止まらない。後半はその「被害者」だった娘の物語。事件を客観視して生きているのに、その過去が自分を締め付け、苦しめる。そして、ドラマティックにせず、淡々と終わらせるラストには不思議な感動と深い余韻が残る。実に完成された小説だ。