2008インターネットで選ぶ本格ミステリ大賞、結果発表!

お待たせしました。
オフィシャル版の「本格ミステリ大賞」が有栖川有栖『女王国の城』に決まりましたので、アンオフィシャル版の「インターネットで選ぶ本格ミステリ大賞をここに発表します。
今年の投票者総数=17名様
投票集計結果(全投票者とコメントはこの下にあります)

インシテミル米澤穂信 2票
『首無の如き祟るもの』三津田信三 8票
『女王国の城』有栖川有栖 3票
『密室キングダム』柄刀一 3票
『密室殺人ゲーム王手飛車取り』歌野晶午 1票

というわけで、栄えある「インターネットで選ぶ本格ミステリ大賞2008」は、
三津田信三『首無の如き祟るもの』に決定しました!三津田さん、おめでとうございます!

首無の如き祟るもの (ミステリー・リーグ)

首無の如き祟るもの (ミステリー・リーグ)


今年はオフィシャル・アンオフィシャル共に私の予想通りの結果でした。『首無』はオフィシャル版でもかなり票が集まったようです。
ほとんどの投票者の方から、「今年はハイレベルだった」とのご意見が寄せられました。今年の候補5作品は、どれも本格として大変面白い作品ばかりだったと思います。「インターネットで選ぶ本格ミステリ大賞」での投票結果だけ見れば『首無』の一人勝ちでしたが、どれも拮抗していたと思います。


以下に、全投票者の投票内容を転記します。今年は長いですよー。(投票者の50音順。こちらの構成上、一部改行など調整している箇所があります。また、明らかな誤記・誤植は修正しました。
私の編集に間違いがありましたら、ご指摘いただければ修正いたします>投票者の皆様)


−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

投票者:秋田紀亜/秋田紀亜 (@akita_kia) | Twitter
・投票作品名:『首無の如き祟るもの』

・理由、およびコメント:

柄刀一『密室キングダム』
一段組で900ページを超える大作だが、設定・トリック・犯人・動機共に新味は見られなかった。


有栖川有栖『女王国の城』
警察を呼ばない理由はおもしろく、謎解きの論理はしっかりしていて、読者への挑戦を堂々とできるほどフェアプレイでもあるが、長すぎた。


歌野晶午『密室殺人ゲーム王手飛車取り』
テンポが良く、ネットならではの終盤の意外性もマル。
この作品に対する容易に予想される批判は、モラリティとリアリティの欠如だろう。しかしそれは小説は現実の延長上にあるべきという考えによるものだろう。そういう考えを否定するわけではないが、小説なんて所詮作り物なんだから、ゲーム的なおもしろさだけ楽しめれば良いという考えもあり得ると思う。時々あまりものモラルの無さに辟易するような場面もあり、エンターテインメントとしてもどうなのかと思わないでもないが、そこも現代人のある側面を誇張することにより批判的に書いているとも言えるのではないだろうか。


米澤穂信インシテミル
『密室殺人ゲーム王手飛車取り』のように、ミステリから殺人をネタにした推理ゲームという側面を肥大化した作品と言える。
ミステリのゲーム性を自覚的に追求しているとも言える。
個人的には「推理自体は正しくとも、他のメンバーの賛同を得られず多数決で処刑され墓下へ移送」という「人狼BBS」(で自分が良くやる失敗)を想起する描写に笑った。自覚的と言えば、この作者の『愚者のエンドロール』同様、ミステリについてのミステリであり、メタミステリ度も高い。この作者の作品に共通するミステリマニアに対する批判的な視点も健在だが、文藝春秋でこういう本を出してしまう作者自身が最もそれである気がする。


三津田信三『首無の如き祟るもの』
これは驚いた。
トリック・犯人共、既存の使い古されたものの応用と組み合わせである点は他作品と同様であるが、練度において勝っていた。前近代的な呪いというホラー的モチーフを、近代的論理で扱う本格ミステリなのだが、呪いという存在自体は解体されるわけではないところが味噌。それはそれとして、あくまで犯人とトリックを解明する(のが目標である)点がミステリである。ラストは蛇足かと思えたが、連発されると威力があった。作中作というモチーフをうまくミステリのトリックに絡めている。


投票者:Atpos
・投票作品名:『首無の如き祟るもの』

・理由、およびコメント

どの作品も楽しめた。しかし、これだ、と即決できる作品は見当らずかなり迷った。
それでも順位をつけるとすると
1位 「首無の如き祟るもの」 2位 「女王国の城」 3位「密室キングダム」 4位 「インシテミル」 5位「密室殺人ゲーム王手飛車取り」となる。
インシテミル」「密室殺人ゲーム王手飛車取り」論理性、解決時の意外性などは評価。現実性のない状況設定にて下位。矢野龍王的?
「密室キングダム」 密室総決算、密室好きとしては満喫できたがストーリー性に難。
「女王国の城」 解決に至る過程は素晴しい。が、犯人の行動の理由として納得いかない点があり次点。
「首無の如き祟るもの」 横溝的設定、1つのトリックによってストンと納得できる点、1番ツボにはまりこの作品を推す。


投票者:ugnol/http://www.geocities.co.jp/Bookend-Ryunosuke/1639/
・投票作品名:『密室キングダム』

・理由、およびコメント

「密室キングダム」柄刀一
個人的には、このような大味の作品が好み。この作品では5つの密室が登場するのだが、ただ単に密室の謎が暴かれるというのではなく、それぞれの密室に別々の意味づけが なされているという趣向が見事であった。さらには奇術師の家系にまつわる複雑な動機もよく練られている。これでもかというくらいの本格ミステリ趣向、ここまで描いてく れれば、もはや言うことはない。


「首無の如き祟るもの」三津田信三
 一点の謎に着目することにより、全ての謎が連鎖的に解かれてゆくという趣向は見事。また、ホラー作品としての怪しげな雰囲気とミステリ作品としての謎めいた雰囲気とがうまく融合した作品でもある。ただ、謎が解かれるまでは、怪異のみが先行するだけで何が起きていたのか、何を狙いとしていたのかがわかりづいらところがやや難点。


インシテミル米澤穂信
意図的にアンチ・ミステリ作品として仕上げている分、純然なるミステリとしては若干評価しにくい。どちらかといえば、エンターテイメント作品として評価したくなる内容である。クライマックスでの、数字の計算により犯人の動機に迫っていく場面は今も印象に残る。


「女王国の城」有栖川有栖
宗教団体の敷地の中にある、不可侵の洞窟の状況から犯人を特定する推理は見事としか言いようがない。事件の解決にあたってはミステリ作品として言う事のない作品であ る。ただ、解決場面の割合に対して全体的なページ数が多すぎると感じられた。これがもっと短い作品であれば、作品に対する印象が大幅にアップしていたはず。


「密室殺人ゲーム王手飛車取り」歌野晶午
なんでこの作品がここに選ばれてしまったのだろうと不思議な感じがする。1冊のミステリ作品としては連作短編集ということもあってか評価は低くなってしまう。さらには 、本格ミステリという観点からも外れてしまっているような気がする。どう考えてもここに加えられていること自体が気の毒に思えてしまう。


投票者:omsoc/God helps those who help themselves.
・投票作品名:『密室殺人ゲーム王手飛車取り』

・理由、およびコメント

単なる佳作秀作というだけでは不十分で、これまでの「本格」の枠組みを大なり小なり揺さぶってくれるようなインパクトのある作品が望ましい。後世、とまでは言わないが、せめてこの先10年位は「本格ファン必読」と多くの人が認識するような作品でなければ、「大賞受賞作」という栄誉を冠するには値しない。過去の名作群と同じ平面上にある良作なら、その「過去の名作群」を読めばいいだけのこと。「必読」と見なされるような作品にはならない。
年々「選考基準」に変化があるもので、一貫性のない投票をし続けて4回目。今年はこんな気分で投票に望んだのであった。


インシテミル
「ゲーム」の設定が無意味にややこしかったのにげんなり。って、私の頭が悪いだけっすか。すいません。


『女王国の城』
普通にミステリとして読む分には構わないが、「本格」としては冗長過ぎる。しかも「読者への挑戦」という形式まで使っておいて、この薄味加減はないだろう。これだけ長ければ、いくらでもレッドヘリングをばらまけるし、そもそも「挑戦」に応じる気力が失せるわ。


『首無の如き祟るもの』『密室キングダム』
共に秀作であることは否定しない。しかし、盛り沢山なネタのどれもがほぼ同じ重みで扱われており、そのせいか「驚きの相乗効果」を生むに至っていなかったのが惜しい。ちょっとした小説技法の工夫で、見違えるような傑作になったような気がするので、次回以降に期待。
なお、揃って最後に蛇足感漂うオチが付いているのに苦笑した。


『密室殺人ゲーム王手飛車取り』
「本格」にとって重要な要素の1つである「動機」を、ここまで無視した内容はどうなのか。単なる退行なのではないか、という思いも正直なところ、ある。しかし、従来の本格であればあり得ない・使えないトリックとその解決のオンパレードを満喫してしまったのも事実。ここまでやってくれるのであれば、これはこれで突き抜けた爽快感すらある。状況設定が現代性と強く結びついている点も鑑みると、「近い将来の本格にとってあるべき一形態」を示しているようでもあり、既成概念に基づいて排除するよりは、新たな方向性を打ち出した作品として好意的に受け入れるべきだと判断。一票を投じることにした。


投票者:がくし/http://www.microstory.org/gakusi/
・投票作品名:『首無の如き祟るもの』

・理由、およびコメント

「首無の如き祟るもの」はオールタイムベスト級の作品でした。「女王国の城」もたいへんよくどっちかだなとは思うのですが、ベテランの有栖川有栖は小説がたいへん巧いんですが、後半の密度で負けているので、「首無」に軍配を上げます。
「密室殺人ゲーム王手飛車取り」は捨てネタのリサイクルとしての方法論を提示したことは、同業者にとってはためになったのではないかと思います。「密室キングダム」は力作で見るべきところも多いとは思いますが、密室にこだわる狂気めいた部分を描くには至らず、作品世界がどうも色あせて見えました。「インシテミル」は非常に面白いですが、斜に構えた作品なので正攻法にはさすがに叶わなかった。


投票者:きたろー/http://www.geocities.jp/kitarojp/
・投票作品名:『首無の如き祟るもの』

・理由、およびコメント

昨年は、2004年以上にハイレヴェルな作品が多く、本格ミステリ大賞のラインナップを見ても、例年になく充実しています。私が「大賞にふさわしい」と思ったのは、「首無の如き祟るもの」「女王国の城」「密室キングダム」の3作品です。他2つは本格ミステリの密度としてはこの3作に及ばないと判断します。
上位3作品の中で、まず「密室キングダム」は大変な力作でしたが、力作過ぎて疲れてしまいました。これでもかとばかりに繰り広げられる密室密室また密室に、本格職人の凄さを見ましたが、今の読者にアピールできるものが少ないように思いました。
「女王国の城」は、プレッシャーを軽くはねのける作者の力量にまずは恐れ入りました。とても楽しく読める作品で、凶器をめぐる細やかなロジックには切れがありました。昨年を代表する傑作でしょう。しかしベスト1とするには物語があっさりしすぎているようにも感じます。
しかし「首無の如き祟るもの」の完成度はこれらを上回るものだったと思います。複雑極まりない事件でありながら、ある一点を論理的に解明することによって、全ての謎がするすると解けていく快感がたまりません。事件が魅力的な上に鮮やかなロジック、本格ミステリの魅力をこれでもかと読者に伝える傑作です。しかしそれだけでなく、三津田信三らしいホラーの要素も(シリーズの前2作ほどではないものの)最後に浮かび上がり、なんともいえない読後感を残してくれます。素晴らしいエンターテインメントでした。


投票者:ジアラト
・投票作品名:『首無の如き祟るもの』

・理由、およびコメント

今年は非常に高レベルな候補作が揃ったと思います。個人的には昨年1年に発行された作品だけを見れば本格ミステリとして全時代を通して最高水準の作品が供給された年なのではないでしょうか? 5作とも例年であれば本格ミステリ大賞の名に恥じない素晴らしい完成度の、そして非常に面白い本格作品でした。
特に今年は『首無の如き祟るもの』『密室キングダム』の2作はオールタイムベスト級の作品であったように感じました。
『首無の如き祟るもの』は本格ミステリとしての一種の理想形でしょう。私が本格に求める最高の形がこの作品に存在していました。ただ論理的に真相を指摘する、その過程がここまでの素晴らしい感動を呼ぶとは……。すべての伏線が収束され一つの真相に結実していく姿は「美しい」としか言いようがありません。三津田信三先生の最高傑作は何かといわれれば2006年に発行された『厭魅の如き忌むもの』であると思いますが、本格ミステリとして最も揺るぎのない「完璧」である作品はこの作品であると思います。
謎解きの面白さでは『密室キングダム』も全く負けてはいません。というよりもこの作品は純粋に謎解きの、その論理の過程を極端にその面白さを追求したものでしょう。その論理を辿っていくだけでも推理の楽しみが堪能できることは請け合いです。その一つ一つが非常にスリリングな論理で読む者をその作品世界に浸らせます。ある意味ではホラー的な面白さも絡めて読者を小説世界へと引き込む『首無の如き祟るもの』と対極にあるとも言えるかもしれません。そしてこのような重厚なかつ重層的な本格ミステリ世界を構築したこの作品のプロットは、過去に発表された本格ミステリ作品の中でもトップクラスのものであるように思えます。そしてこれでもかと言うばかりに詰め込まれたトリック・トリック・トリックの大盤振る舞い。惜しげもなく使われる数多の仮説。いったいこの作品一作でどれだけの長編分のアイディアが詰め込まれているのでしょう? まさに現代最高のトリックメーカーである柄刀一先生の総決算的作品であることは間違いありません。この作品はどちらかといえば2008年のベストという括りよりも、オールタイムベストの括りの方がしっくり行きます。この作品は全時代を通して評価されるべき名作であると断言できます。
私個人としてはこの2作品を推しているのですが、他の3作も非常に優れた作品であるということは間違いありません。
『女王国の城』は有栖川有栖先生がまさに巨峰であることを再認識させてくれた作品でした。どこをどうとっても紛れもない「本格」の、「本格」たる面白さを堪能させていただきました。本格ってこんな作品なんだよ、と誰にでも薦められるような本格の優等生的作品です。
インシテミル』はコード型本格の極致であるように感じられました。事件やガジェットを始めとする全てが魅力的で、改めて本格のコードが本格をより魅力的にさせてくれることに気付かされました。本格で用いられるガジェットが、コードや膨大な伏線の形に生まれ変わらせる姿を見せてもらえたのも心憎い趣向でした。
『密室殺人ゲーム王手飛車取り』は『インシテミル』のようなコード型本格のように、ゲームとしての本格ではなく、まさにゲームのための本格といった印象でした。この作品でまた新しい型の本格ミステリの姿を見せてもらいました。非常に斬新な本格のスタイルとしてのセンスと、この形式だからこそ書き得た、ふんだんに用いられた「トリックのためのトリック」には夢中にさせられました。
昨年は本当に素晴らしい作品を多く読むことができ、非常に素晴らしい時間を過ごさせてくれました。今年もこれらの作品のような多くの素晴らしい作品に出会えることができたらこんなに嬉しいことはありません。


投票者:月田@幻影の書庫/http://www6.ocv.ne.jp/~tsuki/
・投票作品名:『首無の如き祟るもの』

・理由、およびコメント

・『首無の如き祟るもの』
この構図の凄まじさは空前絶後。今後首斬りをテーマに語る場合に、本作を落としては語れまいと思えるほど。バカミス寸前の終盤のメタ趣向も、首無し死体講義の意味合いだって、泣きたくなるほど嬉しくなっちゃう。昨年度の新作本格としては、やはりこの作品がベスト!


・『女王国の城』
まさか15年の飢えをこれほどに満たしてくれるなんて。このシリーズに求める、ロジックの愉悦をたしかに与えてくれたよ。成長したエンタテインメント性で覆い通したホワットダニットも素晴らしい。重圧を跳ね返してのこの出来映え。素直に賞賛したい。惜しくも第2位。


・『インシテミル
たっぷりのミステリ・ガジェットを煙幕にした、芯はシンプルなロジック・ミステリ。それでいてとぼけてて少し捻くれてて、ちょっぴりねじれ気味の本格。いや、これって、とんでもなく本格ミステリのフリをした、本格とは”ずれた”メタ本格なのかも。第3位。

・『密室キングダム』
ハウを組み上げるトリック、ホワイを貫き通すロジック、フーを吹き飛ばす奇想。いずれもが読者を圧倒する大作。物理トリック自体は好みではないが、連鎖するロジックで築き上げられた本格の大伽藍は圧倒的だ。第4位。


・『密室殺人ゲーム王手飛車取り』
ボツネタお蔵出しという感じがしないでもないな。叙述系の内容にしても、こういう書き方ならば何でも可能。”あり得る”とすら感じさせる設定のユニークさは買うが、本格としては格別な評価もできず、大きく引き離された最下位。


投票者:都鞠
・投票作品名:『インシテミル

・理由、およびコメント

今回の作品は、例年に比べてどの作品も楽しめた反面、強く推したいと思う作品がなかったため、受賞作なしで投票しようか最後まで迷った。しかし、受賞作無しで投票するよりも、どんな作品であれ投票することに価値があるのではないかと考え、自分が評価する部分が多かった作品に投票することにした。
候補作の中で読んでいて一番楽しく感じたのは『女王国の城』だが、外側の謎解きの伏線に不満が残り、仕掛けとしては大好きなのに強く推す気にはなれなかった。また、『密室キングダム』も密室への満腹感はあったが、それらを創り出した犯人に物足りなさを感じた。『密室殺人ゲーム』は設定や個々の作品のトリックから稚気は感じられたものの、作品全体で見ると既存の枠に収まりきった構成で、ちょっとがっかりさせられた。『首無』は緻密に描かれた横溝的世界ではあるが、それこそ既存の道具の組み合わせでできあがっている印象があり、しっかり作り上げられているだけに感じられてしまった。
インシテミル』は候補作中もっとも本格ミステリであることに自覚的であり、それを活かしたミステリだったと思う。確かに設定の活かし方や、登場人物の動かし方など、不満は他の候補作と同じくらい感じたが、だからこそ、長所が目立った(活かされている)作品に投票しようと考え、この作品にした。


投票者:名無しのオプ/鳥頭読書日記
・投票作品名:『首無の如き祟るもの』

・理由、およびコメント

『首無の如き祟るもの』を推す。
首無、と銘打って明らかに首切りもののセオリーをこちらに想像させておきながら、それを上回る眩暈感を与えてくれたため。
『女王国の城』は、本筋であるフーダニットの楽しみよりも、ホワイダニット(ただし犯人の動機でなく)に心奪われたため、それを瑕に感じた。
『双頭の悪魔』を超えられてないよな、と言う印象もマイナス。さんざんそれを思いださせる描写があるためいっそう。
インシテミル』は、かなり実験的な作品、本格ミステリのおいしいところをかなりぶち込んで仕上げている良作なのですが、後味が良くなかった。本編を読んでいるときはかなりわくわくしたのですけれど。
『密室キングダム』は、徹頭徹尾密室にこだわって、凄く、すてきなのですけれど、あまりに古色蒼然としすぎている点がマイナスポイント、もう少し新味が欲しい。
『密室殺人ゲーム王手飛車取り』は、『インシテミル』同様かなり実験的な作品。パズル的、ゲーム的に徹したらどうなる、と言うところは高評価なのですが、後味の悪さまで『インシテミル』と同様なので。


投票者:野々田太郎/http://d.hatena.ne.jp/nonoda/
・投票作品名:『女王国の城』

・理由、およびコメント

今年の候補作は、何とも素晴らしい作品が集まった、という印象を受けました。「ああ、まだまだ本格推理は大丈夫だ……」とほっとるすような気持ちになったものです(『本格ミステリベスト10』を読んだときもそう思いました)。この中で、一作を決めるのは、中々難しかったのですが、有栖川有栖氏の『女王国の城』を推したいと思います。いやあ、出るって聞いただけでも感涙ものでしたが(笑 まさに待望の一冊であり、その期待に応えてくれた一冊でもありました。謎の宗教団体の施設に軟禁されているという設定で、活劇やサスペンスの要素も豊富に盛り込み、物語としての楽しさがぐんと増している上に、本格推理としての骨子が全く揺らいでいないというのが良い。派手派手な装飾や無茶苦茶なサプライズトリックをぶち込むのではなく、堅実な事件の考察と、論理のひたすらな積み重ねの美しさで魅せてくれる。特に「読者への挑戦」が挿入されてからの盛り上がりは素晴らしいです。あれやこれや、不審に思っていたこと、何だか引っかかる記述だなと思えたこと……そう言ったこと全てがひとつに連なってゆく快感は、まさに私が考えるミステリの魅力そのものでした。作品全体に仕掛けられた趣向も好ましい(しれっとした顔をしてこういう事をするのが本格なのだ)。前作から15年長い時を経て変遷してきた「新本格」の中に、敢然と「ただひたすらに本格推理である」という事を示した作品だといえるでしょう。


以下他の候補作を読んだことの証明(笑)に短評を……
インシテミル』「淫してみる」の題名通り、ギミックをもりもりに盛り込んで、ミステリで遊んでしまおうという本書。こういう自己言及性もいかにも本格推理らしいですね。随所に盛り込まれたくすぐりに、「空気の読めないミステリ読み」としては楽しいやら、身につまされるやら……。ただ、最後の謎解きにあまり迫力がなかったのが残念でした。
『首無の如き祟るもの』いやあ、コレは凄い。怪奇小説と本格推理の融合。まず怖い。冒頭の「何か」が母親を訪れるシーンとかもう今思い出してもぞっとする。いかにも日本的な湿度の高い恐怖が描かれながら……それがキチンと推理小説として完結するのが素晴らしい。滅茶苦茶にこんがらがった謎が、「たったひとつの欺瞞」が明らかになることで全て解き明かされる構成の妙がエレガントだ。
『密室キングダム』トリックトリック、ひたすらにトリックを詰め込み、ストーリーすら圧迫しているという、その歪さにうっとりします。題名通り密室トリックてんこ盛りで、トリックの独創性云々よりも、そのトリックひとつひとつの裏に犯人の周到な意図が隠されているのが素晴らしい。探偵役が推理を出し惜しみせず、その場で考えていることを開陳してくれるのも良いですね。全編に渡って謎解きの快感を楽しめる。それでいて、緊張感が持続するのも好印象。
『密室殺人ゲーム王手飛車取り』基本的に「何故そんなトリックを?」という理由が求められる現代本格で、「理由なんて良いジャン」と開き直る潔さが素晴らしい。理由無くゲーム感覚で人を殺し回る犯人は、現代だからこそ説得力を持つのでしょうか?(僕のような年寄りにはよくわかりません……) ただ、必然性を考えなければ、こんなにも自由にトリックを仕掛けることが出来るんだなあ、と感心。ただ、ラストがあんまり面白くないかな……、それまでの無茶苦茶さに比べたら、フツーの狂気ではないですかね?


という感じです。『密室〜』と『首無〜』を選から外す理由を書きませんでしたが、特にないからです。他の作品に欠点があったから、『女王城〜』を推したのではなく、単に三作品の中で、これが一番趣味にあったからです。かなり悩みました。でも、こういう悩みって楽しいですね……。


投票者:「鳩時計」子fromやぶにらみの鳩時計@はてなやぶにらみの鳩時計@はてな
・投票作品名:『インシテミル

・理由、およびコメント

なんやかんや言っても、現在の空虚な“空気”に合っているお話だと思いました。綾辻行人の小説世界から、合理=合利性を徹底的に抽出して、異様な逆説を提示した作品です。


投票者:堀江梨穂/http://homepage3.nifty.com/arisugawa/
・投票作品名:『女王国の城』

・理由、およびコメント

インシテミル』アイテムのひとつひとつのマニアックぶりを多いに楽しめた作品。小さな小道具ひとつにも伏線をはるその徹底ぶりにニヤリとした。


『首無の如き祟るもの』ひとつの言葉で全ての謎が解明出来てしまう美しさに唸った。


『女王国の城』ほんの少し見方を変えただけで全ての謎の真意が見える。自分にとっての「本格ミステリ観」をまさに体言した作品。物理的な不可能性は認めるがそれでも尚、この逆転の構図の妙は色褪せない。


『密室キングダム』柄刀さんらしい無骨な作品。丁寧な反証など最初のうちは面白く読めたのだが。美味しくとも喉元まできてしまえばもうそれ以上は食べられない。またそれが本当に犯人に可能だったのか疑問に思える点がいくつかあり、どうにも消化しきれなかった。


『密室殺人ゲーム王手飛車取り』トリッキーな面白さ満載。動機を無視させるには、成る程こういう手順を取れば可能になるのだな、と妙に納得させられた。しかしそうでありながら、犯人の絞り込みに不満が残るなど本格ミステリとして読んだ場合気になる点があり、小説としての面白さの方が先行していたように思う。


投票者:政宗九/当サイト管理人
・投票作品名:『女王国の城』

・理由、およびコメント

正攻法な王道本格の『女王国の城』、ホラーと本格を融合させながら、一つのトリックから全てが解かれていく快感が楽しめる『首無の如き祟るもの』、閉鎖空間におけるゲーム的展開で本格の仕掛けに成功した『インシテミル』、密室トリックに徹底したこだわりを見せ、各トリックの完成度も高い『密室キングダム』、多くのトリックを繰り出して何度も大きな驚きを与えた実験作『密室殺人ゲーム王手飛車取り』、今年の候補作はどれも甲乙付けがたい。個人的には昨年の本格最大の収穫は『首無の如き祟るもの』だと思っているが、「本格ミステリ大賞」としては、『女王国の城』に票を投じるしかないと考えた。
15年ぶりの江神シリーズとして、期待値が高かった作品だが、その期待値を軽くクリアしたばかりでなく、遥かに上回っていた。他の候補作に較べると地味で、インパクトは小さいかも知れないが、犯人限定の論理性の高さ、クローズドサークルになった動機など、考えれば考えるほど素晴らしいという他はなく、有栖川有栖にとっても代表作になるに違いないと思う。手がかりを一つ一つ丹念に吟味した上で犯人を絞り込む醍醐味は、まさにエラリイ・クイーンの初期傑作群に通ずるものがある。
例えば3年後なら、まだ『首無の如き祟るもの』『密室キングダム』などの方が評価が高いだろうが、30年後、あるいは50年後に「この時代の名作」として残っているのは、まぎれもなく『女王国の城』であろう。


投票者:みっつ/未定の予定~ラビ的非日常生活~ - 楽天ブログ
・投票作品名:『首無の如き祟るもの』

・理由、およびコメント

投票理由は、思いも掛けず二転三転していく仕掛けに完全に脱帽したからです。前2作を読み、大きな期待を持って読んだとはいえ、それを圧倒的に超える企みの数々が素晴らしい。あと、文章が簡潔になって読み易くなっていたのもプラス要素です。

最後まで悩みに悩んだのが、有栖川有栖さんの「女王国の城」で「15年ぶり」の冠に負けない大傑作だったと思います。論理的な解決は勿論、このシリーズ特有の青春小説的な雰囲気も堪能出来ましたし、ラストの一味も凄い。

青春ミステリの書き手・米澤穂信さんの「インシテミル」は閉鎖空間を舞台にした実験作でしたが、本格ミステリの道具立てを詰め込んだ設定だけでなく、真相へ至る道筋も非常にフェアで気に入っています。


同じく実験的な歌野晶午さんの「密室殺人ゲーム王手飛車取り」もトリックの必然性が無いゲーム犯罪という物凄い設定をラストできっちり落としているのが好印象。連載中の続編への期待大です。


圧倒的な大作「密室キングダム」は、間違いなく柄刀一さんの代表作になるであろう傑作で、立て続けに構築される密室の数々が本当に魅力的。改めて本格ミステリとマジックの融合の相性の良さを教えられました。


投票者:mihoro/http://www.geocities.jp/y_ayatsuji/
・投票作品名 「密室キングダム」

・理由、およびコメント

五作品とも、読んでいる間とても楽しかったです。本格ばんざい。
いかにも現代的なゲーム感覚の設定を盛り込んだ「密室殺人ゲーム王手飛車取り」と「インシテミル」。前者は、ひとつひとつのネタはどこかで見たことあるような、本格ミステリという枠組みの中ではさほど突飛なものではないんだけど、これだけ惜しげもなく大盤振る舞いされると、やっぱりすごいなあと素直に感心。後者は、物語中盤まで本格ミステリのお約束事の通用しない視点から語られるところが、とても新鮮でした。いかにもな小道具が次々出てくるのに、ミステリマニアが(表向きは)ちっとも登場してくれない。我々は、本の中で何人殺されようがどんなに陰惨な事件だろうが、観客席から舞台を眺めるようにそれを楽しむことができるけど、この小説では自分も惨劇の只中に放り込まれたような臨場感が味わえました。いやあ、怖かった。
大盤振る舞いといえば、「首無の如き祟るもの」もそう。謎が列挙されたページには鳥肌が立ちました。それらがすべて解かれ、しかもその外側にさらに仕掛けがあって。思わずページを前に繰って確認しちゃうという、本格ミステリの醍醐味を味わえた作品でした。
「女王国の城」は、多くの方が抱くであろう「15年ぶり!」という感慨なしに取り掛かった(前三作を読み終わったのがつい先月)私ですが、江神シリーズは本格ミステリのスタンダードだと改めて確信。初心者に「本格ミステリってどういうもの?」と訊かれたら、迷わずこのシリーズを手渡すでしょう。犯人へとたどり着くたった一本の道。シンプル・イズ・ベスト。でもこのロジックを隙なく組み立てるのは、並大抵のことではないなとも思いました。
と、「女王国の城」を褒めちぎっておいて、投票は「密室キングダム」というのは我ながら何故なんだ(笑)。「密室キングダム」は、気取った文章がイマイチ好みでなかったり、情景を思い浮かべるのに手間取ったり、瑕疵はあると思うんですよ。でもこの分厚い一冊にこめられた志の高さは並大抵のものではない。なにより、本格ミステリとしての「品格」を一番強く感じました。この作品を、本格ミステリ大賞という場で評価しなくて他のどこでするんだっ(推理作家協会賞の候補にはなっているようですが)という思いから、一票を投じることにしました。


投票者:monstre
・投票作品名 :「密室キングダム」

・理由、およびコメント

「密室キングダム」……本格ミステリの世界に鎮座まします密室の王国。その密室トリックを物理トリックと心理トリックを絡めながらその背後に意味を据え置き、物語を牽引させる。まさに文中で言うように「密室には意味がある」。特に第三の密室"図書館"の絵解きの図は歴史的に見てもかなりの上位に食い込むトリックではないだろうか?そして密室をただ五つ並べるだけでも贅沢で頭が下がるのに、その伏線の設置と回収に従って見えてくる真犯人の正体が浮かび上がる様が鮮やかで興奮する。


5位 米澤穂信インシテミル」……トリックやロジック、話の展開は80%ぐらい読めてしまうにもかかわらず一挙に面白く読み通せてしまうのは、あちこちに散りばめられた本格古典いじりの数々を発見する喜びがあったと思う。一番目の死の真相は中々凝っているが、設定の杜撰さがマイナス点か。


4位 歌野晶午「密室殺人ゲーム王手飛車取り」……「生首に聞いてみる?」での花瓶に生首を生けて壁に顔を向けておいた理由は素晴らしいし、コロンボちゃんの正体の意外性には満足させていただきました。ただ全体的に少し地味。


3位 有栖川有栖「女王国の城」……学生アリス万歳。意識を散々アリバイトリックに振っておいてから(勿論アリバイも犯人指摘の重要ポイントだが)、たった三つの条件で犯人を絞り込むロジックのキレとシンプルな手際が素晴らしい。犯人の動機・警察を呼べない理由・洞窟の冒険・青春活劇・江神の過去と小説としても面白い要素がたっぷりで満足です。


2位 三津田信三「首無の如き祟るもの」……江川蘭子が登場人物表に出てきたので、あの妖婦がどんな酷いことをしてくるのかと期待で一杯だったけど、どうやら違う人の設定のよう。とは言え、タイトル通りの首切りの意味づけは、横溝正史の黒猫亭事件以来の感動を味逢わせてくれたのでo.k。男女入れ替えに玉突き顔の無い死体入れ替えのコンプレックスはお見事の一言。