中川右介『カラヤン帝国興亡史』

傑作だ。カラヤン生誕百年を記念しての著者の「カラヤン総括事業」の一つだろう。
カラヤンの支配を「オーケストラ=国」に見立てて、帝国の物語として構成している。演奏の芸術性にはほとんど触れず、「権力の掌握に燃えて登りつめる」カラヤンと、「帝王の座から転がり落ちていくカラヤン」の姿を克明に描いている。権力闘争は、ただ醜いだけだ。しかしそれでも表面上は、美しい芸術を生み出し続けていたのだ。蜜月状態と思われていたベルリン・フィルとの晩年の冷え切った関係も、だからこそ高い緊張感を持って作品が作られていたと考えれば、結果的に良かったというべきか。