佐藤尚之『明日の広告』

かつては、単純な広告に消費者がそのまま信じて付いていくだけだったが、最近ではすっかり変わってしまった。情報洪水によって広告は目にし難くなり、例え目にしても信じてくれなくなり、ネットなどで評判を確認するので、すぐに消費されなくなった。こんなに時代が激動しているのだから、見せ方も変えなければ。というのが論旨。
スラムダンク一億冊感謝キャンペーンのような「スラムダンクを知らない人には伝わらない」「伝わる人には深く伝わる」のは今後の広告の方法論としていろんな可能性があると思う。スラムダンクでは、「新聞6紙への全面個人広告」→「ファンだけのためのサイト誘導」→「廃校イベント告知」→「3日間だけの限定開催」という、今までの常識とは別次元にある事例が折り重なって、感動的な傑作イベントが大成功している。
ネットを上手く活用した広告も、やり方次第だがいくらでも面白いことがありそうだ。
ただ、最後に書かれている「ネットも動画の時代に入った」ことは、また広告の動きを大きく変えるのかも知れない。動画を見るのにはまとまった時間が必要なので、その貴重な時間を奪い合う時代が来る、と予測している。
マジシャンのセロは、アメリカでは特にプロモーションをしていなかったのに、日本での放送が(著作権侵害ながら)YouTubeにアップされ、それがアメリカで話題となり、アメリカで「マジシャン・オブ・ジ・イヤー」を受賞したらしい。このケースもまた、新しい広告の形を予見している。
本書で採り上げられている、ユニークな広告の事例をもうひとつ引用しておきたい。

ユニークなところでは、バスの屋根をメディアにしたヤツも好きだったな。バスの屋根にどんなコピーが書かれていたと思います? 「飛び降りるな!」と書かれていたのだ。要するにこれは、ビルの上から飛び降り自殺する人向けにメッセージを発しているように見せかけて、ヒルの窓や屋上から下の道路を眺めているヒトにユーモラスに訴えかけているのだ。広告主は人材派遣会社。つまり「仕事があわなくて悲観して飛び降りる前に、我が社に来たれ」ということですね。
このように、まさか広告に出会うとは思っていなかった場所にメッセージが息を潜めて待ち伏せているのは、消費者が広告をスルーしやすい現在、認知に非常に効く。
(94〜95ページ「第3章 変化した消費者を待ち伏せる7つの方法」より)