道尾秀介『カラスの親指』

カラスの親指 by rule of CROW’s thumb

カラスの親指 by rule of CROW’s thumb

道尾秀介は、またも階段をひとつ昇った。傑作である。
基本はコン・ゲームで、ユーモア性に溢れており、トニー・ケンリックを想起させる作品世界だが、登場人物たちのバックグラウンドでは結構重い話を出しており、ただ「軽く楽しめる」だけに終わらせていない。主人公と同居することになる少女はかつて母親が借金苦で自殺しているのだが、その母親は、やはり借金のために仕方なく「取り立て屋」をさせられた主人公が取り立てていた相手で、主人公も自責の念に囚われていた、など。やはり「人間が描けている」ミステリ作家である。時折出る珍妙な会話なども面白くて飽きることがなく、ページを繰る手が止まらない。
クライマックスには本当に騙された。そして巧妙な伏線の数々に改めて唸る。巧いなあ。