法月綸太郎『しらみつぶしの時計』

しらみつぶしの時計

しらみつぶしの時計

ノンシリーズ短篇集だが、最後の「トゥ・オブ・アス」はデビュー前に発表したもので、『二の悲劇』の原型となっているため、一応、法月シリーズである(ただし、下の名前は「林太郎」である)。
全体的にはハイレベルな作品集で、楽しめた。一部「頭の体操」的なネタもあるが、エラリイ・クイーンも短編では似たような世界だったし、他の部分での評価ポイントも多いので、作品の質が落ちているわけでは決してない。。
特にお気に入りは、「素人芸」。ラストのオチが見事。表題作の、「1440個の異なる正しい時刻を示している時計から、正しいものを探す」ネタなど、どう考えても不可能そうなのに、限定できてしまうマジック(ラストだけちょっと拍子抜けだが)には唸った。「猫の巡礼」は普通小説よりの幻想小編で、本人もあとがきで書いているが、テリー・ビッスン「熊が火を発見する」のような奇妙な味わいがあった。「トゥ・オブ・アス」は現在の作風が既に学生時代から備わっていたことを示した傑作だと思う。
表題作を読んでいて一箇所、ニヤリとさせられる文章があった。クライマックスの一文、

しかし、まだあきらめてはいけない。一分には60も秒があるのだ。

は、クイーン・ファンならきっとピンと来るはず。そう、短編「実地教育」(『クイーン犯罪実験室』収録)での、生徒たちに追い詰められたエラリイが思考する時の文章を思い起こさせるのだ。

ゆっくり考えろ。一分間には秒はうんとたくさんあるのだ。