五十嵐貴久『誘拐』

版元の営業さんから「お薦めなので読んでみてください」といただいた本です。ありがとうございます。

誘拐

誘拐

韓国大統領が来日して、歴史的な友好条約が締結それようとしている裏で、佐山首相の孫娘の誘拐事件が発生していた。犯人は北朝鮮工作員なのかと思われたが。
物語では、真犯人側の行動もカットバックで描かれる。犯人・秋月は会社の「リストラ係」として対象者を退職させていたが、そのうちの一人が一家心中した。その娘が自分の娘・宏美の友達だったことから、ショックを受けた宏美まで自殺を図ってしまい、死んでしまう。そしてリストラの嵐は秋月自身にもやってきた。大きな苦しみを受けた秋月は、この社会の歪みを生んだ首相に怒りの矛先を向け、復讐への長期計画を練った……というのが犯人側の物語だ。このバックボーンがあるため、誘拐も「軽いエンタメ」では終わらせない部分があり、犯人に感情移入するのである。誘拐事件そのものも、斬新な手口が次々と繰り出され、飽きさせない。予想外の結末まで一気に読める。
ただ個人的には、ラストで一点腑に落ちないところがあったのがちょっとマイナス。あまり気にするほどのことでもないかも知れないが*1

*1:ややネタバレながら書いてしまうと、「自分の娘の××が××の×であることを全然知らなかったということがあり得るのか?」ということ。本人から聞かされなくとも、それほどの関係なら一般的に知識として入ってくるのではないだろうか。