トム・ロブ・スミス『チャイルド44』

チャイルド44 上巻 (新潮文庫)

チャイルド44 上巻 (新潮文庫)

チャイルド44 下巻 (新潮文庫)

チャイルド44 下巻 (新潮文庫)

これは素晴らしい。今年最大の収穫の一つ。
様々な要素が組み合わさっているが、最初から最後まで一気に読める。主人公のレオや妻ライーサはもちろんだが、どんな端役までもそれぞれドラマを描ききっている点も素晴らしい。そして「ソ連での連続殺人」という特異性。真犯人は中盤で明かされるが、それでも最後には驚きが待ち受けている。動機も異様だ。
この事件の異常性は、以下の文章に集約されている。

われわれの法のシステムはむしろこの殺人鬼が好きなだけ殺すのを手伝ってる。だから、こいつはまたやるでしょう、何度も何度も。その間、われわれは見当はずれの人間を逮捕しつづけるんです。無実の人々を。われわれの嫌いな人々を。社会的に受け容れられない人々を。殺人鬼がそのそばで次々と殺しつづけてるというのに。
(下巻62ページ)

理想国家ソ連に殺人事件など存在しない、という思想。特殊なイデオロギーに支配されている国家の恐ろしさが判る物語だ。