桜庭一樹『お好みの本、入荷しました』

お好みの本、入荷しました (桜庭一樹読書日記)

お好みの本、入荷しました (桜庭一樹読書日記)

大体WEB連載で読んでいるので、基本的には再読。K島氏ほかの注釈を楽しむのがメインになる。
しかし、直木賞を受賞して忙しくなっても、結婚しても、読書生活は相変わらず濃いのが凄いと思う。そして、時折ハッとする文章に出会える。全体的におちゃらけているように見えるが、やっぱり凄い作家だなあと思う。

「名字が変わったことで、久方ぶりに呼吸が楽になった気がしている。(中略)それに、夫がいるから、大丈夫……。門の前にユラユラ立ち、過去の物語からわたしを守ってくれる。
 未来の物語を、探すのだ」(179ページ、結婚した月の日記)
「わたしは、作家とか編集さんとか、営業さん、書店員さんとか、小説に関わる仕事(戦争だ!)についてる人の言葉で、いっちばんヤなのが「事実は小説より奇なり」だ。もちろん事実はものすごいものだけれど、だからこそ、フィクションというものは、それを力ずくで無理やり超えねばならんのだ」(198ページ)

後者の文章には、鳥肌が立った。なんという意気込みで小説を書いている人なのだ、と思った。
あと、本書のタイトルの由来になったのは、ここ。

《リブロ》を流していて顔見知りの書店員さんに会う。わたしをみつけると「あ、桜庭さん。いいの入りましたよ」と隅のほうに誘導していった。
(と、いくつかの本を薦められたあと)
気づいたら抱えてレジに並んでいた。しかし、本屋さんってこんな感じだったっけ? いまちょっと魚屋さんぽかった(「おっ、今日は鯵が新鮮だよ」「アラ頂くわ〜」的な)気がする。ほくほくと本屋を出る。(32ページ)

いやあ、いいなあ。お互いの趣味思考を知り尽くしているからこそできる会話。こういう書店員に、わたしはなりたい。