藤山新太郎『タネも仕掛けもございません』

引田天功、伊藤一葉、アダチ龍光、島田晴夫。昭和を代表する4人の奇術師を中心に、様々な奇術師を紹介した本。
私が子供のころは引田天功がTVで「大脱出」シリーズをよくやっていて、凄いスターだった。どうして彼の評伝が書かれていないのだろう、と疑問だった。しかし、本書を読むとその理由が分かった。引田天功はスターではあったが、浪費癖の持ち主で借金王だった。問題だらけの人物だったのだ。大阪万博で2億円のギャラ(昭和45年当時の2億である)を契約してイリュージョンショーをやることになったが、ギャラを舞台装置ではなく、豪遊に使ってしまい、結局準備不足と貧相な装置で終始お粗末な舞台になったらしい。それでも天下の引田天功に文句は言えなかったそうだ。
伊藤一葉もまた個人的に好きな奇術師だった。彼は引田天功とは真逆のような人生を歩んだが、同じ年に生まれ、同じ年に亡くなっている。