又吉直樹『火花』ブームから振り返る、「芸人小説」のいくつか(ちょっと隠し玉もあるよ)

火花

火花

又吉直樹の『火花』芥川賞受賞は、もはや異常な盛り上がりである。
全国の書店からあっという間に在庫が消えた。
そのちょっと前、「アメトーーク」の読書芸人回の翌朝に芥川賞候補になった時も全国の書店の在庫がなくなったが、あれから1ヶ月経ってわりと出回ってきたかな、と思ったところに今回の事態である。
当然、文藝春秋は大増刷を重ねてくると思われるが、もうしばらくは、このフィーバーは続きそうだ。なので、『火花』を読んでみようかな、と思ってる人は、書店で見かけたら、すぐに、迷うことなく購入されることをお勧めする。また次でいいや、と思っているうちに、また書店から消えていることだろう。


ところで、芸人が書いた小説は、なにも『火花』が最初ではない。『火花』が話題になったのは、掲載誌が純文学の雑誌「文學界」だったということにもある。『火花』は、芸人が書いた「初の純文学」である。
いわゆるエンタメ小説なら、芸人が書いた小説は結構ある。中にはベストセラーになったり、今回の『火花』ブームに匹敵する盛り上がりを見せた作品もあるのだ。それらのいくつかを思い出してみよう。


劇団ひとり陰日向に咲く』(幻冬舎幻冬舎文庫

陰日向に咲く (幻冬舎文庫)

陰日向に咲く (幻冬舎文庫)

映画にもなった超有名作だ。ハードカヴァー出版当時の恩田陸さんの「ビギナーズラックにしてはうますぎる」というコピーは絶妙だったと思う。


・田村裕『ホームレス中学生』(ワニブックス幻冬舎文庫

ホームレス中学生 (幻冬舎よしもと文庫)

ホームレス中学生 (幻冬舎よしもと文庫)

ああ、あったなあ、と思い出される方も多いだろう。店頭に並べた端から売れまくるほどのブームになり、児童書版も出て、映画化もされ、さらにはお兄さんによるスピンオフ(?)『ホームレス大学生』まで出た。ただこれは一応ノンフィクションということなので、小説とはちょっと違うかもしれない。
そして確か、この『ホームレス中学生』がきっかけとなって、お笑い芸人が次々に自伝エッセイや小説を発表するようになったと記憶している。この辺はたくさん出過ぎたので、ここでは追いかけないでおく。


太田光マボロシの鳥』(新潮社→新潮文庫、現在は品切)

マボロシの鳥 (新潮文庫)

マボロシの鳥 (新潮文庫)

自他共に認める読書好き芸人、爆笑問題・太田が満を持して世に出した小説。そういえば、又吉が読書芸人としてフィーチャーされる前は、「この人が薦めた本は売れる」芸人といえば、圧倒的に太田光だったはずだ。彼が好きな小説を語る時の熱い語りは印象深い。爆笑問題が所属する事務所「タイタン」も、太田が好きな作品『タイタンの妖女』(カート・ヴォネガット ハヤカワ文庫)から来ているのは有名な話だ。


鳥居みゆき『夜にはずっと深い夜を』(幻冬舎幻冬舎文庫

夜にはずっと深い夜を (幻冬舎文庫)

夜にはずっと深い夜を (幻冬舎文庫)

じつはこれ、私の隠し玉である。確か刊行時に道尾秀介さんがツイッターで絶賛されていたので読んでみたら、これが思った以上に良く出来ていて感心した覚えがある。ミステリやホラーとしての味わいもある。あのちょっとブッ飛んだキャラクターの鳥居みゆき(最近は大人しいけれど)を想像しながら読むと、イメージに合うような、かけ離れているような、妙な印象を受けると思う。


ビートたけし『少年』(太田出版新潮文庫

少年 (新潮文庫)

少年 (新潮文庫)

《小説も書ける芸人》の源流的存在は、ビートたけしかも知れない。エッセイ集も秀逸な作品を多数残しており、『たけしくん、ハイ!』が代表例だろうか。


そのまんま東ビートたけし殺人事件』(太田出版

ビートたけし殺人事件 (OHTA BUNKO)

ビートたけし殺人事件 (OHTA BUNKO)

最後は変わり種。だが、ごくごく一部でカルト的に高く評価されている小説。私は未読だが、ミステリである。


あ、そういえば、横溝正史ミステリ大賞の昨年の受賞者も元芸人の藤崎翔さんである。芸人出身のミステリ作家としてどれほど活躍できるか、これから真価が問われるところだろう。期待したい。

神様の裏の顔

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