TVには映らない、AKB48グループの知られざる活動……『AKB48、被災地へ行く』

今回は岩波ジュニア新書の新刊、石原真『AKB48、被災地へ行く』を紹介します。

AKB48、被災地へ行く (岩波ジュニア新書)

AKB48、被災地へ行く (岩波ジュニア新書)

これは、東日本大震災発生から2ヶ月後に始まった、AKBメンバーによる被災地訪問活動を、多くの写真とエピソードを交えて紹介した本です。著者の石原真さんは、NHKのプロデューサーとして、「MUSIC JAPAN」や「紅白歌合戦」に携わり、現在BSプレミアムで放送中の「AKB48 SHOW」を立ち上げた方です。NHKでめちゃくちゃ偉い人なのに、ファン以上にAKBに詳しい人として、ヲタたちの間で注目され(AKBの曲ばかりを流したFM特別番組でその豊富な知識を披露して一躍有名になりました)、2015年公開のドキュメンタリー映画「アイドルの涙 Documentary of SKE48」では監督もされています。そして本書では、AKBの被災地訪問活動に第一回目から帯同されていることも明かされています。
なんと、被災地ライブでのステージ台本は全て、石原さんが書かれているそうです。

AKB48グループは現在でも、公演やコンサート、イベントなどの合間をぬって、月に一回のペースで被災地訪問を続けています。あまり報道されないし、本人たちも積極的には言いません。現在では「AKB48 SHOW」で定期的に紹介されているだけだと思います。

1回目の訪問で岩手県大槌町と山田町を訪問し、現在の状況を見た僕たちはある決断をしました。「これが復興するためには長い時間がかかる。1回や2回訪問するのではダメだ」ということです。そこで「毎月1回訪問する。期限なし」という方針を決めました。(41ページ)

被災地ではなるべく現地にお金を落とすため、東北の会社に業務をお願いしているそうです。

会場の設営、誘導、警備などは仙台にあるニュースプロモーションという会社が担当してくれています。PAは山形にあるオトムミュージックという会社です。(42ページ)

盛岡駅から帰る時はメンバーは必ず「福田パン」を買う、というエピソードも紹介されています。
他にも、映画でも印象的な場面として使われた、女の子がステージ上の峯岸みなみに道端で拾った花を手渡す場面や、初参加した宮脇咲良の感想文(宮脇が知られるきっかけになったもの)、クリスマス会、復旧した三陸鉄道車内のライブ、成人の日ライブなどなど、多くのエピソードが紹介されています。
中でも多くのエピソードが綴られているのは、山田町の子どもたちとの交流と「ジオラマ」の話です。ジオラマ作成に最初から携わっているマブリットキバさんの寄稿も収録されていますが、意外なことにマブリットキバさんは最初「アンチAKB」だったというのです。

オマケにマブリットキバAKB48グループの活動に対してアンチ的な思想を持っていました。だからこそ被災地で活動すると聞いて良く思わなかったことは事実です。自分はこども達を守らなければならないと、この時は思っていました。だからこども達が感謝状を書こう、手紙をいっぱい届けようとした行動も絶対にメンバーさん達には届かないだろうと冷めた目で見ていました。

(中略)こども達は辛い現実から逃げようとしたAKB48グループアンチのマブリットキバに用心棒としての役割を与え、メンバーさんたちに会わせたのです。
マブリットキバはこども達の気持ちに応え今度こそ、こども達の夢を最後まで叶えようとジオラマを作るこども達の用心棒として勤めるようになったのです。(136〜137ページ)

2014年の握手会襲撃事件が起こった翌月、事件以降初めての被災地訪問もまた山田町でしたが、その時は現地の方々が大きな横断幕を作って逆にメンバーを励ました、というエピソードなど、ファンの間でもあまり知られていないエピソードもあります。中でも感心したのは、このエピソードです。

毎年3月11日はAKB48グループ全メンバーのスケジュールが白紙になっていると書きましたが、もうひとつ決まっていることがあります。毎年3月第1週に全メンバーにメールが届きます。それは「3月10日までにネイルや指先の飾りを落としてください」というものです。AKB48はアイドルなので、ネイルに装飾をつけたり、奇麗な色に塗っているメンバーもいます。ドラマの役柄などで、飾っているメンバーもいます。しかし、3月11日だけは装飾なしでライブをおこなっています。実は、この日のライブではピアス、イヤリング、指輪などの装飾品もすべてはずしています。そのことに気がつく人は居ないかもしれませんが、せめてもの心配りとして実施しています。(197〜198ページ)

AKBグループに被災地訪問活動は、今後もまだ続いていくでしょう。TVなどではほとんど知られることのない姿を本書で知っていただければ、AKBに対する印象も変わるかも知れません。