ピエール・ルメートルは絶対、『悲しみのイレーヌ』→『その女アレックス』の順に読め!

ピエール・ルメートルといえば、去年『その女アレックス】(文春文庫)の異例の大ヒットで話題になりました。

その女アレックス (文春文庫)

その女アレックス (文春文庫)

今は「史上初!7冠達成!」だそうで、えーと、「このミス」1位、「週刊文春ミステリーベストテン」1位、「ミステリが読みたい」1位、「本屋大賞翻訳部門」1位、……までは分かるのですが……サイトによると、「IN POCKET」文庫翻訳ミステリ1位、「CWAインターナショナル・ダガー賞」(イギリス)、「リーヴル・ド・ポッシュ読者大賞」(フランス)だそうです。うーむ、最後の2つはさすがに知りませんでした。
http://hon.bunshun.jp/sp/alex
それはともかく、とにかくすごい作品だったことがこれでお分かりだと思います。ところが、そこまで評判になると逆に読む気が失せるのが天邪鬼な私なのでありまして、実は『その女アレックス』、つい先日まで未読でした。どころか、どんな話かも全然知りませんでした。今となっては反省しています。いや、反省していません。……ん、どういうこっちゃ? と思われたでしょう。
この複雑な気持ちをこれから説明するのが、本稿です。


『その女アレックス』の評判を受けて、今年になってルメートル作品の翻訳・出版が続いています。まずは『死のドレスを花婿に』

死のドレスを花婿に (文春文庫)

死のドレスを花婿に (文春文庫)

実はルメートルの日本初紹介はこの作品でした。2009年に柏書房から刊行されたのですが、当時はさほど話題にならず。そのまま忘れ去られるところでしたが、『その女アレックス』がきっかけとなって再評価の機運が高まり、文庫されました。えーと私は本稿執筆時点では未読なので、感想等は書けません。


そして10月、全くタイプの異なる2作品が続けて出ました。まずは文春文庫から、『悲しみのイレーヌ』です。

悲しみのイレーヌ (文春文庫 ル 6-3)

悲しみのイレーヌ (文春文庫 ル 6-3)

実は私の初ルメートルは本書でした。まあ話題の人だし、どんなもんかいな、と思ったわけですね。先日も書いたように、今年はなぜか翻訳作品がたくさん読めてて、この流れなら読める、と判断したわけです。
そして読んでびっくり。これは超傑作ではないか! すごい! これがルメートルか! と感嘆しました。実に凄惨な連続殺人をカミーユ警部が捜査する話なのですが、、、おっと、ここからはネタバレになっちゃうので書けないのですが、特に本書は「本格ミステリ」としても高く評価できる作品だと思っています。なんなら今年は「本格ミステリ・ベストテン」でもかなり上位に来るのではないか、という予感もするほどなのです。
で、ラストが……うーむ、これも書けないけど、ここがタイトルに絡んでくるところなんだよなあ。まあ、そういう感じの話でして、なんとも言えないやり切れなさが読後に残るはずです。


そんな流れで、私は『その女アレックス』は未読の状態で『悲しみのイレーヌ』を読んだわけです。『イレーヌ』がこんなに面白いなら、あの噂の『その女アレックス』も読んでみようか、と手にして読んでみて、またまたびっくり。ああ、これは傑作だわ、話題になるわ。これもまたストーリーが紹介し難いのでほとんどしませんけど、冒頭のストーリーからは全く予想外の話に展開していくのです。


そして読みながら、ああ、これは『悲しみのイレーヌ』を先に読んでおいて良かった、とすぐに悟りました。だって、カミーユが前の事件を引きずり過ぎてますもん。あれから4年も経ってるのに立ち直れてなくて、しかも似たような事件に遭遇して捜査の勘が鈍ってるとか言われてるし。でもそれも、痛いほど分かるんですよね。そりゃそうだよなあ、とも思います。
逆に『アレックス』から『イレーヌ』を読むと、どうなる話か知ってる状態になってしまうわけで、その点ではちょっと残念ですよね。いや、メインのストーリーのネタバレではないので、充分面白く読めるとは思うのですが、でも、でもねえ。


なので私は断言します。ルメートルカミーユシリーズは、『悲しみのイレーヌ』→『その女アレックス』の順番で読むべし! と。
おいおい、『アレックス』あんなに売れちゃったんだから、そんなん無理だよ、ほとんどの人が読んでるよ! と突っ込まれてしまいましたが、そうなんですよね……仕方がないけど、それは不運だったというしかありません。一方で、『その女アレックス』まだ読んでないんだよねえ、という皆さんは、本当にラッキーですよ。あなたはこれから、衝撃過ぎる傑作を2作品も続けて読むことができるのですから!!


10月はもうひとつ、『天国でまた会おう』も出ました。早川書房のハードカバー版と文庫版上下巻の同時発売という破格の扱いです。

天国でまた会おう

天国でまた会おう

天国でまた会おう(上) (ハヤカワ・ミステリ文庫)

天国でまた会おう(上) (ハヤカワ・ミステリ文庫)

天国でまた会おう(下) (ハヤカワ・ミステリ文庫)

天国でまた会おう(下) (ハヤカワ・ミステリ文庫)

こちらはミステリ度はやや薄めですが、第一次大戦直後のフランスを舞台にした犯罪小説としても読める、これも傑作でした。終戦から実業家としてのし上がっていくプラデル、そのプラデルに戦地で殺されかけ(生き埋めにされた!)復讐心を抱くアルベール、そのアルベールの友人で壮大な詐欺計画をぶち上げるエドゥアール。彼らを中心とした群像劇です。どんでん返しのようなミステリ的な仕掛けはありませんが、ラストまで一気に読ませる小説です。フランスでは最高の文学賞ゴンクール賞」を本作で受賞しています。


出る作品出る作品が全て傑作のルメートル。まだまだ翻訳市場を席捲していきそうです。