私の西村京太郎ベスト

私はミステリに入るきっかけが西村京太郎だったので、過去にもことあるごとに西村京太郎作品について書いている。こことかこことか。そんな私が最も「多くの人に読んで欲しい」と思っている作品は『華麗なる誘拐』である。日本国民1億2000万人を誘拐する、というアイデアには興奮させられた。誘拐は何も「拘束されている」ことだけを指すものではなく、生死はこちらの手の内にあるのだ、という犯人側「ブルー・ライオンズ」の主張。そして起こる無差別殺人。なす術のない国民。そしてやがて提示される、犯人側からの意外な身代金5000億円の回収方法。最初のうちは順調に身代金が集まるが、実はその方法こそが逆に犯人側を追い詰めることになる……というような展開。
1978年に発表された長編だが、恐らく当時は「なんとも荒唐無稽すぎる話だ。実際には絶対にありえないな」と思われていたはず。しかし1995年、あの地下鉄サリン事件が起こった時、不謹慎ながらも私はとっさにこの作品を連想した。「ブルー・ライオンズだ!」と。荒唐無稽な小説に現実が追いついた瞬間だった。世紀末を予見していた傑作である。