本屋大賞で自分語り

shakaさん(id:shaka)やdominoさん(id:domino)やsasashinさん(id:sasashin)の本屋大賞に関する文章を読むと、いろいろ思うところがあるのだが、考えがまとまらないので、とりあえず自分語りをしてみる。
第一次投票で私が投じたのは『真夜中の五分前』、『空の中』、『イニシエーション・ラブ』である。『真夜中の五分前』は昨年の傾向から二次投票に残ることが充分に考えられた作品だった。『空の中』は読んだ人が少なそうだったのでこのサイトで呼びかけるという反則技まで繰り出した。『イニシエーション・ラブ』は私以外誰も入れないに違いないと考え、マニアックな選択として入れた。まさか14位とは……。
つまり、私は一次の段階では『夜のピクニック』には投じなかった。理由を一言で言えば「最も有力だったから」である。紀伊国屋書店の書店員が選ぶ「キノベス」でも1位になり、「本の雑誌」が選ぶベストテンでも1位になった時点で、「本屋大賞も『夜ピク』だな」という空気が出来上がっていた。まるで予定調和になりそうなのが嫌だったのだ。「キノベス1位」=「本屋大賞」は、昨年の小川洋子博士の愛した数式』と同じ図式なのである。ただ、『夜ピク』が傑作なのは疑いようのない事実なのは確かだった。
二次投票の候補作が発表された時、私は萎えた。私が投じた作品が一つも残らず、「女性受けしやすそうな“泣ける小説”」ばかりが目立つリストだった。ここで「本屋大賞」の傾向が完全に読めてしまった。そうか、本屋大賞はこういう小説が選ばれる賞なんだ、自分向きじゃないな、と思った。(来年はもっと男性の投票者が増えて欲しいと思う。「メッタ斬り」でも指摘されているが、『黄金旅風』のような作品がたまには選ばれる空気が欲しい)
だが、本屋大賞の意義は充分に理解していたので、ここで挫けるわけにはいかなかった。未読作品を読んだ。そして自分でも意外なことに、面白い小説が多かったのだ。ここに本屋大賞の別のメリットがある。読んだこともなかった作家との出会いを提供してくれるのだ。意外に面白かったりすると、また読んでみよう、という気にさせてくれる。そして今年は、特にそう思わせてくれる作品が多かったように思う。
私は二次投票で『夜のピクニック』『明日の記憶』『袋小路の男』に投票した。この10作品を並べてみると、恩田陸の圧倒的優位はもはや揺るぎなかったからである。荻原浩を知ったのは、今回最大の収穫だった。『袋小路』もいい恋愛小説だった。
さて、『博士の愛した数式』は本屋大賞から一気にブレイクし、映画化まで決まった。今回の『夜のピクニック』ではそこまで売れないのではないか、という意見もある。恩田陸は既に人気作家だし、『夜ピク』も話題作として既にかなり売れたはずだからである。だが、それだけ売れたと思っている『夜ピク』でも、「本屋大賞」の発表前の段階では“たったの”8万部だったのだ。本屋大賞受賞で5万部増刷されたそうだが、それでもまだ13万部。『博士』は今や40万部に届く勢いだと聞く。人気作家であっても、我々が思うほど本は読まれていないものなのだ。この傑作をもっともっとみんなに読んで欲しい。そういう気持ちを込めて、これから『夜のピクニック』を売っていこう。なにしろこれは、我々書店員が選んだ賞なのだから。