島田荘司『夏、19歳の肖像 新装版』

新装版 夏、19歳の肖像 (文春文庫)

新装版 夏、19歳の肖像 (文春文庫)

19歳の時、私は交通事故に遭って入院した。退屈を紛らわせたのは、窓から見える「谷間の家」に住む女性だった。私は双眼鏡で毎日のように家の様子を眺めていた。が、ある日、その女性が黒い袋を持って出て、工事現場の土を掘って埋めていたのを目撃した。さらにその2日後、その家で葬儀が行われていた。私は連想した、あの女性が父親を殺し、埋めたのではないか……退院してからも私は、あの女性を追い続けた。そしてついに、同じアンケート調査会社で働くことが出来た。彼女は小池理津子という名前だった。それから私は理津子と青春の日々を過ごすことになる。
1985年に刊行され、後の『異邦の騎士』にも繋がる島田荘司の青春小説の名作として語られる作品が大幅に改稿されて新装版となった。もちろんかつて読んでいるのだが、もうすっかり忘れているのでこれはこれで楽しめた。ただ、青春小説として現代でも素晴らしいかというと、ちょっと厳しい。これは今の目で見れば「ストーカー小説」だよね。その後の展開もちょっとご都合主義的で、いくらなんでもこんなに上手くいかないだろう、と思う。それでも最後まで読ませるのは、冒頭の「謎」を最後まで引っ張っているからだ。冒頭に魅力的な謎を、という島田ミステリー理論が、こんな小説でもきちんと実践されているのは、徹底していると言うべきか。