古川日出男『アビシニアン』

沈黙/アビシニアン (角川文庫)

沈黙/アビシニアン (角川文庫)

他に類例のないような、不思議な読後感が残る小説だ。猫と生活していくうちに野生生物化して文盲になった少女と、誰に求められるでもなくシナリオを書き続ける男が出会う物語で、そういう描写がほとんどないにもかかわらず「極上の恋愛小説」になっている。古川日出男の独特の世界観、そして洗練された文章を味わう格好のテキストと言えよう。深い余韻が残るが、どこにどう感動したのかが自分でもよく解らない。しばらく間を空けて、また読み返してみたい。また違った感動が得られるかも知れないからだ。古川日出男の文体は他とは全く異質のものなので、それに慣れるためにはこの分量が相応しいかも知れない。(現在は『沈黙』との合本として角川文庫になっている)