古川日出男『ロックンロール七部作』

ロックンロール七部作

ロックンロール七部作

20世紀の半ばにアメリカで生まれたロックンロールは、全世界を席巻した。様々な形で、七つの大陸を流転(ロール)したのだ。これはロックンロールから見た20世紀の地球の記録である。
私は古川日出男の作品をまだ4作しか読んでいない。そんな状態の私がこんなことを言うのも不遜かつ筋違いだが、もう断言してしまおう。
古川日出男は「天才小説家」である。
『ベルカ、吠えないのか?』で、犬を通して20世紀を俯瞰した古川日出男は、今度はロックンロールを通して20世紀を語り切ってしまった。「七部作」はそれぞれ別の短編として雑誌に掲載されたものだが、それぞれ、七つの大陸を舞台にしてロックンロールが語られる。七部作で全地球を制覇した形になるのだ。人名をわざわざ日本語に訳して表現し、しかも太字で表記したり、イラストが縦横無尽に小説に割り込んだりと、独特の世界に戸惑うかも知れない。さらに物語によっては、一体何が言いたいのかさっぱり分からないものもあるのも事実だ。だがそれらも、彼が天才だから許せるのだ。個人的には第五部で、私はまたも鳥肌が立った。インド現代史を、エルビス・プレスリーの生涯になぞらえているのだ。こんなこと、古川日出男以外に思いつく人がいるだろうか。この連作集で、私たちは古川日出男という小説家の「騙り」の才能に酔いしれるしかないのである。
ついでに書くと、第一部の最初の一行からして素晴らしいのだ。ここだけ引用させていただく。

ロックンロールはアメリカで生まれたけれど、ロックンロールはアメリカで憎まれた。