乙一『銃とチョコレート』

銃とチョコレート (ミステリーランド)

銃とチョコレート (ミステリーランド)

その国では、富豪の家から財宝が盗まれる事件が頻発していた。現場に「GODIVA」と書かれたカードが残されることから、いつしか「怪盗ゴディバ」と呼ばれるようになる。そして、怪盗ゴディバを捕まえるために名探偵ロイズが活躍しており、ロイズは国の子どもたちの憧れの的だった――移民の父とこの国の母の間に生まれたリンツは「移民の子」として子どもたちにからは虐めの対象となり、差別されていた。そんなリンツの父親は半年前に病気で死んでしまった。リンツは、父の形見の聖書から謎の地図を発見する。これは怪盗ゴディバに関する手掛かりなのか? そしてリンツはひょんなことから、探偵ロイズと出会ってしまった。
乙一が、読者を子どもに想定して小説を書くとこんな感じになるのか、ということが良く分かる小説だ。少年の目から見た「怪盗と探偵」の対決、という単純な図式で片付けてもいいのに、そんな甘えたようなことをしないのが乙一。主人公の設定も「らしい」ところだし、人は得てしてみんな「裏の顔」を持っているものだという、大人になると誰もが実感するけど、子どもに教えるにはやや躊躇われる真理も堂々と描いてしまう。クライマックスにおける邪悪ぶり、しかし最後に不思議と残る清々しいような余韻。巧いなあ。騙りの天才は児童文学を書かせてもやっぱり天才だったのだ。