大倉崇裕『福家警部補の挨拶』

福家警部補の挨拶 (創元クライム・クラブ)

福家警部補の挨拶 (創元クライム・クラブ)

「江波戸図書館」の館長・雨宮祥子の計画は完璧だった。亡きオーナーの息子、江波戸宏久は本に全く興味がなく、自らが抱えた借金返済のために土地と図書館を売り飛ばそうと画策していた。彼の自由にさせるわけにはいかない。祥子は宏久を、本を盗む途中で事故死したように見せかけて殺すことに成功したのだ。そんな祥子の前に、警察官らしくない風貌ながら徹夜で捜査する福家警部補が立ちはだかった……(「最後の一冊」)。
帯に大きく「刑事コロンボ古畑任三郎の系譜」とあるように、倒叙形式の短編集。そんなにコロンボとかを引き合いに出さなくても、と思ってしまうが、読むとどうしてもコロンボを想起してしまうので、仕方がなかったところか。もっとも著者のコロンボ好きはファンには有名で(コロンボの翻訳も何作か担当している)、本作の執筆にもコロンボ研究家・町田暁雄氏が協力しているそうだ(小山正の解説による)。そのためか福家警部補は女性なのに、どうしても男性をイメージしてしまう。そのイメージはともかく、作品はそれぞれ周到に作られており、福家警部補と犯人の名勝負を存分に楽しむことが出来る。個人的には上に紹介した「最後の一冊」の犯人像が好きかな。