東野圭吾『赤い指』

赤い指

赤い指

認知症の母親を抱えていることを除けば、どこにでもあるごく普通の家庭を持っていた昭夫。だがある日、庭に無造作に捨てられていた少女の死体が全ての状況を変えてしまった。中学生の息子・直巳が殺してしまったらしいのだが、息子は詳しい事情を語ろうとしない。将来ある息子を守りたい妻・八重子の説得に折れ、昭夫は少女の死体を公園のトイレに遺棄した。そんな彼らの元に、名刑事・加賀恭一郎が捜査の眼を向けてきた。行き当たりばったりすぎる犯行がバレるのは最初から時間の問題だった。加賀に対抗すべく、昭夫はある計画を実行に移した……。
直木賞受賞後第一作は、元々短編だったものを長編化した作品だそうだ。少年少女が殺される事件は最近でも実際に頻発しているので、わざわざこんなリアルな題材を読まされなくても、とも思ってしまうが、相変わらずのリーダビリティーの高さで感情移入でき、一気に読ませてくれる。後半の展開も、ラストの真相も、実に後味が悪く、読後感も決して良くはない小説だが、「家族愛とは何か」など、いろいろ考えさせる部分も多い。特に245ページは感涙必至だろう。社会派作品の傑作も多い東野作品の中では小粒に感じられるかも知れないが、読んで損はない作品だと思う。