山之内正文『八月の熱い雨 便利屋〈ダブルフォロー〉奮戦記』

 便利屋「ダブルフォロー」を運営する皆瀬泉水が出会う奇妙な依頼とそこから明らかになる意外な真実――オートバイが大好きなおじいちゃんがそのオートバイほ手放して塞ぎ込んでいる。きっかけは事故だったらしいのだが……「吉次のR69」、メールでの謎の依頼「ボクたちのデートをビデオで撮って欲しい」の真意は……「ハロー@グッバイ」、老婦人からの依頼「亡き夫が所蔵していた本を読んで欲しい」を受けていたところ、その家には謎の無言電話が掛かっていた……「八月の熱い雨」、買い物代行の依頼で向かった家はゴミ屋敷だった……「片付けられない女」、長年「郵便将棋」をしていた相手からの指し手を書いたハガキが突然途絶え、代わりに高級な将棋盤が届けられた……「約束されたハガキの秘密」の5編。なんでも屋が奇妙な依頼を受けているうち、その当事者たちの意外な姿が浮かび上がる。どれもパターンが同じと言われればそうなのだが、主人公の泉水と亜季(第一話で親しくなり、以降泉水の手伝いをするようになる)のやり取りも楽しく、いい話に落ちるものが多いので読後感も悪くない。ミステリとしての意外性がもっとあれば傑作短編集になったと思うのだが。個人的には注目している作家*1なので、次にも期待したい。

*1:実はここで「若手」と書くつもりだったのだが、なんと1955年生まれで、私よりも遥かに年上だった。大変失礼しました。