北國浩二『夏の魔法』

夏の魔法 (ミステリ・フロンティア)

夏の魔法 (ミステリ・フロンティア)

夏希はヒロとの思い出の島にやって来た。実年齢は22歳だが、老化が早く進行する特殊な病気によって、見た目は既に老婆と化していた。この夏をも超えられるかどうかも分からない状態だった。作家として成功している夏希は新作を書くため、かつて親しんだ民宿に偽名を名乗って宿泊した。懐かしい顔に出会うものの、すっかり老いた自分が夏希であることなど誰にも分かるはずはなかった。そして――ヒロもまた、この島にいた。彼はまだ、中学生時代の夏希との思い出を憶えていた。あの人の中には、まだ輝いているわたしがいるのだ。しかし現在のヒロには、民宿のアルバイト・沙耶が想いを寄せているようだった……夏希の心の中に、「殺意」が浮かび始めた。それは徐々に大きくなっていった。
これは素晴らしい。傑作だ。「ミステリ・フロンティア」はまたしても新しい才能を見出した。
北國浩二は『ルドルフ・カイヨワの憂鬱』で日本SF新人賞に佳作入選しており、本作が第2作目。デビュー作も一部で高く評価されていたが、私は未読だったので全く知らなかった。本作を一言で言えば、「あることを守るために殺人を計画する話」になるが、高いリーダビリティーで、とりわけ主人公の心理描写が素晴らしい。犯罪小説である以上に恋愛小説として見事に構成されており、ラストは感動を禁じえない。最近は恋愛小説・純愛小説が一種のブームになっているが、安易な設定で書かれた恋愛小説よりも遥かに感動的で、泣ける。私は泣いた。是非多くの人に泣いていただきたい。