保阪正康『松本清張と昭和史』

『あの戦争は何だったのか』に続けて読んだ保阪作品。というのは実は逆で、タイトルに興味を引かれて手にしてみたら著者が同じ人だっただけなのだ。
芥川賞作家であり、後に社会派推理小説ブームの中心として、常に精力的な執筆活動を続けた松本清張は、歴史にも深い興味を示し、重要な作品を数多く残している。その中でも特に昭和前期を総括した内容の『昭和史発掘』、戦後昭和中期のタブーに果敢に挑んだ『日本の黒い霧』を採り上げて松本清張が暴いた昭和の影を浮き彫りにする。『昭和史発掘』で最も多くのページを割いたのは当時まだ真相がほとんど闇の中にあった「二・二六事件」で、昭和初期がこの事件に集約されることを明らかにしている。著者もまた『あの戦争は何だったのか』で、太平洋戦争に突き進む転換点が「二・二六事件」だったことを指摘していたのは、恐らく清張の影響によるところが大きいのだろうと感じた。
終戦直後の日本で起こった著名な事件の多くは、裏でGHQが絡んでいたのではないか、とする『日本の黒い霧』は、最終的に「朝鮮戦争」へ進む空気を生んだのではと推理していた。朝鮮戦争に関する部分では現在では誤った推理だったことが明らかになっているが、それでも全く無意味なことではなかっただろう。清張史観は現在でも充分刺激的であり、興味深いものである。