森見登美彦『太陽の塔』

太陽の塔 (新潮文庫)

太陽の塔 (新潮文庫)

冷静に考えれば、失恋男のストーカー観察日記。だが類例のないユニークな筆致で圧倒的な説得力を持つ世界で、なんか納得させられてしまう。そして、素晴らしい。恋人のいない全国の男どもはみんな、クリスマスイブなんてクソ食らえだ、と思っているはずで、クリスマスをいかにやり過ごすかに懸命になっているはずだが、それをここまでのテンションで書かれると、もう参りましたと言うしかない。ええじゃないか。
以前、私がまだ森見作品を全く読んでいなかった時、「森見を読んでいないなんて、人生を損している!」と説教されたことがある。なるほど、私は人生を損していた。それは『夜は短し歩けよ乙女』を読んでようやく気が付いた。そして私は、このデビュー傑作を今ごろ読んだことが更に悔しい。私は人生を3年以上も損していたのだ。私の3年分の人生を返して欲しい。そう、今の私ならあなたにこう言える。「森見を読んでいないなんて、人生を損している!」