本多孝好『正義のミカタ』

正義のミカタ―I’m a loser

正義のミカタ―I’m a loser

大学に進学した亮太は、自由な学生生活を謳歌しようと思った矢先、かつて苛められていた男・畠田に会ってしまい、一気にブルーになった。ボコボコにされる寸前で助けてくれたのは、同じクラスだというトモイチだった。彼に誘われるがまま、「正義の味方研究部」なるサークルに入ることになった。学内にはびこる悪と戦うサークルらしいのだが……。
直球ど真ん中の青春小説だが、後半では大きな組織と戦うようになり、「正義とは何なのか」という主題も見え隠れするようになる。
いつものように、個性的な登場人物たちとぐいぐい読ませる展開、印象的な台詞などに出会える小説だ。これだから本多孝好は止められない。
ある女性が、自分がかつていじめっ子だったことを告白するシーンがある。大学進学後、いじめていた相手の子が店で明るい笑顔で接客している姿を見て、声を掛けようと店に入ったら、その子が急に固まって笑顔が消え、そこで初めて自分が彼女にしてきたことを悔いる。とても印象的な場面だ。
こういうのはいじめた側かいじめられた側か、どちらかを経験していないと理解できないだろう。私はいじめられた側の経験がある(小学校時代の一時期だけだが)ので、いろんなことを考えた。
他にも、高級腕時計をはめただけで周囲の見る目が変わるのも、妙なリアリティがある。
最も印象的な文章を引用しよう。

「彼らの言う正義は、ただの言葉なんだ。ただの理念だって言ってもいい。もちろん、それは悪いことじゃない。そんな言葉や理念すら持っていない人は大勢いるからね。悪いことじゃないけど、弱い」
(397ページ)