小林英夫『〈満洲〉の歴史』

〈満洲〉の歴史 (講談社現代新書)

〈満洲〉の歴史 (講談社現代新書)

満洲といえば、傀儡国家としての側面ばかり取り上げられるのが常だが、本書はそれも踏まえながらも、経済、文化の面も押さえて多角的に全体像を浮き彫りにした本だ。
最も目を引くのが209ページ。第6章の扉ページだが、一枚の写真が載っている。なんと「プロ野球満洲リーグ開幕式」の写真だ。1940年、当時の日本プロ野球がそのまま満洲に渡って野球興行をやったらしい。読売巨人軍が優勝し、川上哲治首位打者になった。このプロ野球興行の前にも、都市対抗野球で満鉄の「満洲倶楽部」が優勝したこともある。
また、戦後の満洲に関する本についても分析しているのが興味深い。特に近年は、政治論ではなく、ノスタルジー溢れる回顧論が中心になっているというのだ。

つまり、満洲像の把握が、かつての帝国主義批判から、なつかしき異国のふるさと・満洲という構図に変わってきているのである。それは、時間の経過とともに厳しかった現実がすり潰され、表皮が削り落とされ、その奥に納まっていた個人的な楽しい思い出や男女の性に象徴される人間の原点への回帰が表面に露呈した結果だともいえよう。