門井慶喜『おさがしの本は』

おさがしの本は

おさがしの本は

「職名および姓名を述べよ」
「調査相談課、和久山隆彦」
「レファレンス・カウンターか」鼻を鳴らした。「特に不要」
「どうしてですか?」
隆彦の態度が積極に転じたのは、あるいはこの瞬間だったかもしれない。潟田が、
「性能のよいコンピューターの二、三台もあれば肩代わりさせられる」

図書館のレファレンス係をしている主人公が、ほんのわずかな手がかりから求める本を探す、さながら「本の探偵」という趣向の連作。上に引用したのは三番目の「図書館滅ぶべし」で副館長(後に館長になる)から冷たく言い放される遣り取りだが、そのコンピューターでも推察できないようなレベルの謎ばかりだ。
後半はその館長らとの「図書館存亡の危機」という物語も広がりを見せる。政治力の現実も突きつけられてしまうあたりが、嫌な後味を残す。
本が好きでミステリが好きな人にお薦め。