伊坂幸太郎『あるキング』

あるキング

不思議な伝記風ファンタジーというべきだろうか。弱小地方球団、仙醍キングスのファンである両親の元に産まれた子は「王が求め、王に求められる」という意味で「王求（おうく）」と名づけられる。産まれた日は、千醍キングスの監督・南雲慎平太が亡くなった日だった。王になることを運命づけられた王求の人生は、野球センスがあまりにも天才的であるがゆえに、決して順風満帆ではない。むしろ大きな十字架を背負って成長することになる。しかし、それも運命として受け入れる。
いつもの伊坂節は鳴りを潜めている。洒脱な会話は最小限に抑えられているし、絶妙なプロットや伏線もあまりない（効果的な伏線はある。「頑張れー」など）。ラストも爽快感はない。しかし、読み終わると、やっぱり伊坂の小説だという印象が残る。伊坂にしか書けない小説だ。伊坂の小説を読んでいる、という事実だけで、至福の時間なのだ。