北村薫『自分だけの一冊』

自分だけの一冊―北村薫のアンソロジー教室 (新潮新書)

自分だけの一冊―北村薫のアンソロジー教室 (新潮新書)

ミステリ作家、直木賞作家であり、名アンソロジストによるアンソロジーの真髄講義。カルチャーセンターでの授業を文章化したもの。
自分の体験談、アンソロジー作りの裏話から、「アンソロジーを編む」実習まで。写真も満載で、ミステリファンなら「おお」と思うネタもあり(折原一さんが大学生の時に北村さんに出した年賀状とか)。デビュー前に創元推理文庫の「日本探偵小説全集」の編集に携わったのは有名な話だが、その裏話が実に興味深い。夢野久作小栗虫太郎久生十蘭は当時「巨匠」ではなく、彼らで一巻ずつ構成するのは「冒険」だった、とか、木々高太郎の巻では『人生の阿呆』を入れたくなかった、とか(北村さんが「全く、評価しない」のがその理由)。一巻の厚さは、最も長くなる『ドグラ・マグラ』に短編いくつかを加えたくらいの分量、という基準で決まった、とか。
本書で北村さんが一番言いたかったのはこれだと思う。

アンソロジーは《選んだのがどういう人か》を示している。勿論、収録されている作品を読むものでもありますが、同時に――あるいはそれ以上に、選者を読むものなんですね
(47ページ)

最後の、聴講生によるアンソロジー作りなど、それを見るだけで、編んだ人の読書体験が伺えて、実に面白いし、いくらでも想像が沸いてくる。すごくいい仕事をしていると思う。