【翻訳】今年ここまでに読んだ海外小説(主にミステリ)のまとめ【今年は読んでる】

私はミステリマニアとして、もちろん海外作品もたくさん読んできたのですが、ここ数年、いや、ここ十数年レベルでも、ほとんど読めなくなってしまいました。年間通して読んだ海外作品は1作品だけ、ということもざらです。なぜ読めなくなったのかは自分でも謎でして、国内作品だけでいっぱいいっぱいなのかも知れませんし、本屋大賞向けにミステリ以外の小説も多く読むようになったので、手が回らなくなってきているのかも知れません。
ところが今年は、自分でも驚くほど読んでるのですよ。なんとここまでに13冊です、13冊! いや、13冊くらいで騒ぐなや、と海外ファンの皆さんには突っ込まれそうですが、一年で1冊くらいしか読んでなかったのが、もう13冊なのですよ。すごいではないですか。


というわけで、ここで今年の海外作品読書を振り返っておきます。なお、手抜きで申し訳ありませんが、感想は「読書メーター」の投稿をほぼそのままコピペしてます(感想を書いてなかった作品は新たに書きました)。また、それ以降の追記事項を加えた作品もあります。では、どうぞ!


フェルディナンド・フォン・シーラッハ『禁忌』

禁忌

禁忌

シーラッハ、相変わらず切れまくってる。前半のゼバスティアンが芸術家として成功していく過程だけでも面白い物語なのに、事件発生後は法廷物の傑作に変わり、大胆な離れ業的な真相に驚愕。そして物語が終わった後、さらりと書かれた「注記」が最大のサプライズ。すごいなドイツ。


イーデン・フィルポッツ『だれがコマドリを殺したのか?』

超入手困難本で私も実物を見たことのない作品が新訳で復活。プロットがしっかりしてて予想以上に楽しめた。さすがに現代だと、これ以上のジェットコースター的な展開に慣れているので、トリックにはあまり驚かなかったけれども。ただ、登場人物のキャラは立ってて、恋愛小説とミステリとの融合具合も良かった。黄金時代の本格として十分に価値があり、読むに値する作品だ。


ケン・リュウ『紙の動物園』

紙の動物園 (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)

紙の動物園 (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)

世間の評判も納得の傑作SF短編集。表題作は感涙必至だし、他にも日本人が主人公だったり漢字が効果的に使われる作品もあって、日本人にも親しみやすい。思った以上にバラエティに富んでいるので、誰もが琴線に触れる作品に必ず出会えるはずだ。個人的には「太平洋横断海底トンネル小史」が良かった。2015年の最重要作品であることは間違いない。SFファンならずとも必読。
※『紙の動物園』はその後、予想外の形で注目されました。ご存知、芥川賞作家・又吉直樹さんがTVで「今読んでいる本」「夏休みの読書にお薦め」として紹介したのです。まさかハヤカワSFシリーズが飛ぶように売れる日が来ようとは……。もし今、本屋大賞の翻訳部門に投票するならこれかなあ、と実は思っています。


クリスチアナ・ブランド『薔薇の輪』

薔薇の輪 (創元推理文庫)

薔薇の輪 (創元推理文庫)

ブランドの初訳長編。障害を持つ娘との生活を綴った日記で一世を風靡している女優エステラの元にギャングの夫が娘に会わせろとやって来た時、惨劇が……訳が読みやすく一気に読めるし、なによりもブランドなので謎解きの面白さは保証済み。一部予測出来る部分もあるものの、よく考えられたプロットで感心した。タイトルの意味も深い。ブランド入門としてもお薦めできる、本格ミステリの傑作と言えよう。


エラリー・クイーン『中途の家』

中途の家 (角川文庫)

中途の家 (角川文庫)

かなり久し振りの読書になる新訳版。作品自体が古いためか、冒頭がちょっと取っ付き難くかったが、事件が発生してからは一気に読み進めた。そして解決編でのガチガチ本格推理っぷりには感動すら覚える。新訳でのフェアな配慮についても解説で書かれており、新訳の意義も感じさせてくれる。


ルネ・ナイト『夏の沈黙』

夏の沈黙

夏の沈黙

過去の秘密が書かれた本を発見する序盤からは想像もつかない方向に話が進み、意外な真相が明らかになる。一気に読めるサスペンス。


シェリー・ディクスン・カー『ザ・リッパー』

ジョン・ディクスン・カーの孫娘が書いた、現代の少女が切り裂きジャック事件当時にタイムスリップするSFミステリ。「あの事件の真相はこれだ」的な真相を推理する話ではないし、おじいさんの作風(不可能犯罪とか密室とか)をそのまま継いでるわけでもないので注意。事件の全貌を知っている状態でタイムスリップするので、周りと話がかみ合わなったり、現代に帰ると歴史が変わっている、などのネタもちゃんとあるので、細かい突っ込みは抜きにして、キャサリンの活躍を純粋に楽しめる。面白いよ。
※『ザ・リッパー』については別エントリでも書きました。


ヴァル・ギールグッド&ホルト・マーヴェル『放送中の死』

放送中の死 (ヴィンテージ・ミステリ・シリーズ)

放送中の死 (ヴィンテージ・ミステリ・シリーズ)

ラジオドラマの放送中に殺される役だった俳優が、その時本当に殺されていた……。アイデアは面白いし、作者は実際にBBCのラジオドラマに関わった人なので、リアリティは感じられるが、プロのミステリ作家ではないため、全体的に盛り上がりに欠ける。放送中に死んだシーンをリアルタイムで描いてないので、サスペンス性もイマイチ。ただ、解決編での推理はいかにも黄金時代のミステリの趣がある。余計なことだが、解説の森英俊さんが最近はまったアイドルグループって、誰なんでしょうか?


エラリー・クイーン『エジプト十字架の秘密』

エジプト十字架の秘密 (角川文庫)

エジプト十字架の秘密 (角川文庫)

EQの国名シリーズの中でも特に人気と評価の高い作品。例の手かがりから全ての謎が解かれる過程は何度読んでも素晴らしいが、変な宗教とかヌーディストとか、広い範囲が舞台になっている点など、読者を飽きさせない工夫もいろいろ入った作品なんだなあと改めて感じた。


トム・ロブ・スミス『偽りの楽園』

偽りの楽園(上) (新潮文庫)

偽りの楽園(上) (新潮文庫)

偽りの楽園(下) (新潮文庫)

偽りの楽園(下) (新潮文庫)

スウェーデンの村で起こった出来事。嘘をついているのは、母か、父か? 前半、というか全体の3分の2くらいまでは、ダニエルと母親の語りが頻繁に交替するので、テンポ感はあるものの、物語に入り込み難かったのだが、それが終わってからの展開は一気だった。衝撃の真相を経て、後味が悪いような、いいような、なんとも言えない読後感が残る。


マーガレット・ミラー『まるで天使のような』

リノで無一文になったクインは、迷い込んだ謎の新興宗教の修道女から、ある男の消息調査を依頼される……心理サスペンスの名作が復刊。私は初読だが、噂通りの傑作だった。「最後の一撃」ものと分かっていても、思いもよらぬ結末には驚かされる。そこに至るまでの物語が実に面白く、読ませるからこそ、ラストが効果的なのだと思う。ミラーはほとんど読んだことがないが、追いかけなければならないと感じた。


エドワード・D・ホック『怪盗ニック全仕事2』

怪盗ニック全仕事(2) (創元推理文庫)

怪盗ニック全仕事(2) (創元推理文庫)

ホックの短編は安心して読める安定感がある。なので、だらだら読んでるだけでも充分楽しいが、怪盗ニックには「依頼者はなぜ価値がないものが欲しいのか」「ニックはどうやって盗むのか」などの謎解きポイントがいくつかあるので、本格ミステリ的にも楽しめる。なにもない部屋から盗めと言われる話や、何も盗むなと言われる話などの捻くれた作品が特に意外性が高くて良かった。ニックの仕事がスパイだと信じるグロリアとのサブストーリーも面白い。


ヘレン・マクロイ『あなたは誰?』

あなたは誰? (ちくま文庫)

あなたは誰? (ちくま文庫)

ヘレン・マクロイの初訳初期長編。謎めいた冒頭から一気に読ませるストーリーで、本格ミステリでは扱い難いテーマを取り入れた上でちゃんと犯人当て小説になっており、意外性も伏線もあることに驚く。発表当時も衝撃だったろうが、今読むと「えっ、これで本格やるの?」と、当時とはまた違った受け止め方になっているだろう。登場人物が少なめなのも、読みやすい要因だと思う。


以上13作品です。
今読みかけている作品もあるし、この後も話題作が出そうなので、実際にはもう少し読みそうです。復刊に伴う再読も(主にクイーン作品)ありますが、ここ数年の復刊シーンはなかなか熱いものがありますね。
東京創元社さんの本が多いのは、まあ、諸事情込みです(ゲラや見本をいただくことがあるので)。でも面白いので読めている、というのが実情ですね。
そしてこのペースなら確実に、ベストミステリ投票で「海外部門」にも投票できそうです。そして、「本屋大賞」の翻訳部門にも堂々と投票できます! これが一番嬉しかったり。