2016年の最後に出合った2016年最高傑作。これが無冠で終わるわけがない!

私はかつて、「音楽そのものを文章化した小説」を夢想していたことがある。誰も書き得なかった領域の小説を書くこと、たとえば、聴覚に障害のある人にも読んでいると頭の中に音楽が響いてくるような、そんな小説である。もしそれが書けるなら、自分はすげえ小説家になれるな、と。


もちろん、それは夢想のままで終わった。


だが現代の日本には、その難題に挑み、成功した人がいる。藤谷治の『船に乗れ!』だ。これを読んでいた私の頭の中で、オーケストラが響き渡った。世の中には天才がいるものだ、と思った。なので、その年の本屋大賞には、迷うことなく『船に乗れ!』を1位で投票した。

船に乗れ! 1 合奏と協奏 (小学館文庫)

船に乗れ! 1 合奏と協奏 (小学館文庫)

そんな私が2016年の最後に、『船に乗れ!』に匹敵する、いや、それ以上の小説に出逢ってしまったのだ。恩田陸蜜蜂と遠雷』である。
蜜蜂と遠雷

蜜蜂と遠雷

ピアノコンクールの一次予選から本戦までを描いた作品だが、小説ではなく、これはピアノコンクールそのものだ、と思った。それも一種類ではない、登場人物によってその音は全く違うのだ。小説とは、ここまでできるものなのか、と感動した。小説を読んでいるということそのものを忘れ、コンクールの現場にいるような感覚だった。
音楽だけでなく、青春小説の視点でも素晴らしい作品だった。帯には「文句なしの最高傑作!」の文字が踊っているが、まさにその通りだと感じた。


小説には様々なジャンルがあり、それぞれに素晴らしい作品がある。ミステリなら文句なしで『許されようとは思いません』(芦沢央)が私の今年のベストだ、というように。だが『蜜蜂と遠雷』は、2016年の小説のベスト・オブ・ベストだと断言したい。
現時点で(2017年1月5日現在)、『蜜蜂と遠雷』は直木賞候補になっている。個人的には本命グリグリの二重丸だと思うのだが、そう簡単に話がまとまらないのが直木賞なので……。でも、その前後に発表される「あの賞」にもノミネートされるかも知れない。どちらにしても、これが無冠のまま終わるわけがない。きっと何かの賞を獲ってくれるものと期待している。