保阪正康『あの戦争は何だったのか』
あの戦争は何だったのか: 大人のための歴史教科書 (新潮新書)
- 作者: 保阪正康
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2005/07/15
- メディア: 新書
- クリック: 31回
- この商品を含むブログ (146件) を見る
現在でも議論が絶えない問題点を、新書の分量で簡潔かつ明快に解いている。もちろんこれだけでは全ては理解できないだろうし、全く反対の意見・視点もあるのでこの本の内容を鵜呑みにするべきではないのだろうが、私自身、日本現代史はほとんど知らなかったりするので目ウロコな記述が多く、付箋を貼りまくってしまった。
太平洋戦争に向かっていった風潮の転換期が「二・二六事件」にあったと本書は指摘する。「テロの恐怖」は山本五十六、近衛文麿をもおびえさせ、昭和天皇をも震撼させたという。「何をやるか分からない」軍には、誰も何も言えなくなってしまい、軍部の暴走を止められなくなってしまった。そして昭和15年の「皇紀2600年」で、全国民が天皇に仕える「神がかり的な国家」になってしまった。ここから終戦にいたるまで、どこか歯車が狂っていたとしか思えない国家像を浮き彫りにする。終戦記念日は8月15日ではなく、降伏文書の調印式のあった9月2日であることも意外だった。もっともソ連はそのドサクサで条約破りの侵攻とシベリア抑留を行ったのだが。
特に印象的な文章を引用する。
それで、日本人は、アメリカ軍が来たら「竹槍で刺し違える」などといっていたのが、一夜明けると、全てがリセットされてしまった。そしてその後は、見事に占領軍に治められてしまう。みな「アイ・ラブ・マッカーサー」に変わってしまえるのだ。昨日まで全国民の約十人に一人が兵士となり、アメリカ相手に憎悪をかきたてた戦いをしていたのが、まるでウソのように掌を返して好意的になってしまう。こんな極端な国民の変身は、きっと歴史上でも類がないだろう。
そのことを、悪いというつもりもないし、いいというつもりもない。ただ、それが日本人の国民性なのだと思う。
あるいはこうも言えるかも知れない。戦争の以前と以降で、日本人の本質は何も変わっていないのだと。
敗戦後のどん底生活から、高度成長を成し遂げた。その“集中力”たるや、私には太平洋戦争に突入した時の勢いと似ているように思えてしまう。つまり逆にいうと、高度成長期の日本にとって、“戦争”は続いていたのかもしれない。ひとたび目標を決めると猪突猛進していくその姿こそ、私たち日本人の正直な姿なのだ。(223ページ)
「月刊PLAYBOY」2007年1月号
PLAYBOY (プレイボーイ) 日本版 2007年 01月号 [雑誌]
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2006/11/25
- メディア: 雑誌
- クリック: 1回
- この商品を含むブログ (9件) を見る
大森望・豊崎由美・北上次郎が選ぶ「この10年で最も面白いミステリー100」、太田光が選んだミステリー10冊、大森望・千街晶之・杉江松恋による「『このミス』予想」など。
この雑誌を読んだ人は、まず間違いなく古川日出男のファンになるであろう。
『アラビアの夜の種族』が「10年ベスト」国内編で堂々の1位に輝いただけでなく、太田光も1位に挙げている。
太田 冒頭でいきなり、その物語を読むと相手が戦う意欲を失ってしまうくらい途轍もなく面白い物語が、いままさにここで書かれている、という宣言で始まる話なんです。
宣言されたとおりの面白さを読者に感じさせられなかったら、あとでどれくらい突っ込まれるかわかっているのに、作者が一か八かの勝負にあえて挑戦しているのがすごいと思った。よっぽど自信があったんでしょうけど、あそこまで言い切ってくれると、物語への興味がガーッと高まりますよね。
実際に読んでみたら、予告どおり、ほんとうに面白い話でした。
そして古川日出男本人のインタビュー記事が凄い。ここまで自作に自信を持ったことが喋れて、それを万人に納得させてしまえるのは、古川日出男しかいないのではないかとさえ思う。カッコいいっす。
『アラビア』はウイルス的に増殖して、無限に広がってほしい本なので、賞をいただいたおかげで本が売れるのがなによりうれしかった。でも、『アラビア』がほめられたとき、どこかで、「あ、やっぱりな」と思う気持ちもあったんですよ。誰もが「これ、すごいよね」って言って終わってしまうことに危機感もあって。なかなか追いついて来られないくらい、新しくすごいものを書いて、「これはすげー!」って言われるのが、作家の俺にとってはいちばんうれしいんです。まあ、やりますよ。
POP王『POP王の本』
- 作者: POP王
- 出版社/メーカー: 新風舎
- 発売日: 2006/11
- メディア: 単行本
- クリック: 3回
- この商品を含むブログ (9件) を見る
http://www.webdokusho.com/shoten/pop/index.htm
正直言うと、私はPOP王のPOPはあまり好きではない。コメントは確かに「読んだ人間がお薦めしたいポイントを書いている」のだが、表紙の色合いやイラストなどをそのまま使った全体構成が好きになれないのだ。このPOPを見ても「ああ、こういう雰囲気の本があるのか」と思うだけで素通りするような気がする。『書店ポップ術』の梅原さんによる、勢いのあるPOPの方が好きだ。(さらに書くと、私にとって理想的なPOPは、下手な字で書きなぐっただけなのにキャッチーで面白い「ヴィレッジヴァンガード」のPOPである)
しかし、POP王のPOPで実際に本が売れるのは疑いのない事実。ここで紹介されているPOPのいくつかは実際に使ったこともあるし、版元がコピーして配ることもある。面白い本をお薦めするのに、どこを紹介したらいいか、どんな文章を書いたらいいか、など参考になる。
POPだけでなく、コラムも読み応えのあるものばかり。「売れるPOPの書き方」「POP王お墨付き書店リスト」も素晴らしいが、最後の「ポップ論」は書店員必読だろう。リアル書店が生き残るために必要なことは何か、そのヒントが書かれているのだ。
北國浩二『夏の魔法』
- 作者: 北國浩二
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2006/10/24
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
- 購入: 1人 クリック: 12回
- この商品を含むブログ (36件) を見る
これは素晴らしい。傑作だ。「ミステリ・フロンティア」はまたしても新しい才能を見出した。
北國浩二は『ルドルフ・カイヨワの憂鬱』で日本SF新人賞に佳作入選しており、本作が第2作目。デビュー作も一部で高く評価されていたが、私は未読だったので全く知らなかった。本作を一言で言えば、「あることを守るために殺人を計画する話」になるが、高いリーダビリティーで、とりわけ主人公の心理描写が素晴らしい。犯罪小説である以上に恋愛小説として見事に構成されており、ラストは感動を禁じえない。最近は恋愛小説・純愛小説が一種のブームになっているが、安易な設定で書かれた恋愛小説よりも遥かに感動的で、泣ける。私は泣いた。是非多くの人に泣いていただきたい。