五條瑛『プラチナ・ビーズ』

プラチナ・ビーズ

プラチナ・ビーズ

米兵ディーノの不審死から全ては始まった。アナリスト・葉山は北朝鮮の不審な動きを取材していたが、米兵の死体もその線上に浮かんできた。北で一体何が起こっているのか? 謎の言葉「プラチナ・ビーズ」とは何か?
五條瑛のデビュー作である本書が刊行された当時(1999年)は、北朝鮮はまだ「謎だらけの国」だった。日本人拉致疑惑は「そもそも疑惑すら存在しない」と否定していたし、地方の貧しさもまださほど明らかにされていなかった。金正日も謎の指導者だった。もっとも、現在でも分からないことが多いのだが――本作は、その北朝鮮の実情に大胆に切り込みながら、スパイ小説というエンタテインメントとして昇華させた力作である。分量の多い小説で、特に前半は登場人物の「自分語り」が多く、物語もなかなか進まなくて苦労させられたが、中盤から面白くなった。「プラチナ・ビーズ」の正体が明かされてからはラストまで一気だ。現代の日本でもスパイ小説の傑作は書けることを証明しているかのようだ。文庫には短編「ミスター・オリエンタル」も追加収録されているが、これはあくまでも「後日談」としてのボーナス・トラックだろう。
小説の内容とは無関係だが、葉山は頻繁に「メイビー」という言葉を発する。キムタクが何かのドラマで「メイビー」を多用する主人公を演じていたと思うが、この葉山のキャラ設定を脚本家が使ったのではないか、と思うのは邪推だろうか?